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第13話 嘘

名残惜しそうに髪をすき、その場を去る高見さん。 俺は手元の果物に視線を送りながらフリーズしていた。 (付き合いたてのカップルか!) それに何で、心臓が早鐘打ってるんだ。 手元を機械的な動作に戻しつつも、脳内は完全にパニクっていた。 ――翌朝。 「今日は飲み会で夜は遅くなるから、ご飯大丈夫だよ」 「わかりました」 例の如く高見さんの腕の中で目覚めた俺に、業務連絡をする高見さん。 (俺一人なら、今日は簡単なのでいいや) 頭を撫でて、寝室を後にする。 高見さんにとって、スキンシップが挨拶みたいなものなんだろう。 そんな何気ない仕草にいちいち反応してしまう俺は、チョロッチョロのガキに違いない。 その日、一人で食べる食事は味気なかった。 手抜きというのもあるが、二人で食べる食事に慣れてしまったのだろう。 (別に、一人暮らしの時は普通だったけどな) もしかしたら、お盆の高見さんもこんな心境だったのだろうか。 そんな事を考えながら、俺は腹八分になった所で箸の手を止めた。 ――夜23時。 まだ帰ってこない。 1人で高見さんの寝室で寝るのも気が引けて、あてがわれた自室にせんべい布団を敷いて寝た。 ――夜0時頃だろうか。 ぱたりと扉が閉まる音。 多分高見さんが帰って来たんだ。 近付く足音。 重く圧し掛かる体重。 うっすらと、高見さんが覆い被さっているのがわかった。 酒臭い。あと香水くさい。 着の身着のまま俺の布団に入って来たらしい。 移り香だろうか、甘い香り。女性用の香水だ。 よほどの事でない限り、匂いは移らない。 (デートだったのかな) 不意に「少し前に彼女が居たきり」と言っていたのを思い出した。 高見さんは自称EDでエロいけど、元来ノーマルなんだよな。 最近俺とは普通にセックス紛いの事が出来てるし、もしかするとまた直に彼女が出来るのかも知れない。 知らない匂いが鼻について、頭がくらくらする。 俺は、自分の身の程を再確認した。 ――翌朝。 「どうしたの、それ」 「乾燥で喉を傷めたみたいで」 俺はマスクをつけていた。 もちろん嘘である。 「大丈夫?家事休んでいいよ?」 そう言って無遠慮に俺の額に手を当て、熱を測る。 ほんと、軽率に触ってくるよな、この人。 誤解するから辞めて欲しい。 「体は平気なんで問題ないです」 「そっか、無理しないでね」 くしゃり、と頭を撫でる。 俺は高見さんから距離をとり、家事に戻った。 高見さんと変な関係になってから、ハグの他に、素面でもちょいちょいキスされるようになった。 マスクはそれを回避するための口実だ。 何故俺がそんな事をしているのか解らないが、とにかく平常心に戻りたかった。 流石に日常的にキスされると、考えてしまう。 (欲求不満なのかな) そして俺は、その捌け口? 胸が軋み、チクリと痛んだ。 料理中、味見をしていると高見さんがやって来た。 俺も、と口を開けてきたので、口に食材を放り込む。 食材をのみ下した後、そのままキスされた。

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