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赤いバラ砕けて 5
クッキーの箱を持ち、リビングに向かった俺の視線は、テーブルの上に置いてあるものに釘付けになった。
――先生の鞄に入ってた、「本命っぽいやつ」のリボンと包装紙だ。
その隣にある長方形の箱の中には、仕切りによって五つの部屋があった。真ん中が空洞で、左右に二個ずつバラの形をしたチョコレートが入っていた。全部色が違う。
「これ、健人くんがくれたんだけど、悠里も食べない?」
母さんが今まさに口に入れようとしているのは、真っ赤なバラのチョコレート。
――赤いバラ。花言葉。なんだっけ。
いつもはそんなこと思いつきもしないのに、今日はやけに気になった。
母さんが口を閉じて、バラは見えなくなった。母さんの顎が規則的に動く。口内で粉々に噛み砕かれているチョコレートを想像してしまい、気分が悪くなる。
「美味しいよ。どれにする?」
母さんから箱を受け取る。左から、白、黄、一つ飛んでオレンジ、緑。赤いバラは母さんが食べてしまった。
――赤じゃないなら、何でもいい。
適当に黄色のバラをつまみ、箱をテーブルに置いた。
「これ、あげる」
先生に渡せなかったクッキーを差し出すと、母さんの顔が輝いた。
「えっ? 悠里までくれるの? 嬉しい。ごめんね。本当なら私があげる方なのに、すっかり忘れてて。男の子二人からもらえるなんて、今年はいいことありそうね」
喜んでいる母さんには申し訳ないけど、俺のはただの「在庫処分」だ。
口を開けば余計なことを言いそうで、黄色のバラを頬張った。美味しい。マンゴー味のようだ。高そうな味がした。赤いのはイチゴ味だったのだろうか。チョコレートの美味しさを感じれば感じるほど、赤いバラを食べたかった気持ちが募る。
――先生、俺には用意してなかったくせに、母さんにはこんなに立派なバラのチョコレートをあげたんだね。母さんも母さんだよ。お徳用チョコ一個で「感謝しろ」と言われた俺に、こんなものを見せるなんて。
母さんに対する理不尽な怒りが湧いてきて、俺は頭をかきむしった。
――だめだ、違う。母さんは全然悪くない。
「悠里、具合悪い?」
母さんが、心配そうに俺を見上げていた。
「大丈夫。眠いだけ」
「ご飯食べたら、早めにお風呂に入って寝たら?」
「そうする」
俺は俯いて椅子に座った。母さんの顔とバラのチョコレートを直視できそうもなかった。
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