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知らないままでいたかった 2
――はあ、意外と大荷物になっちゃったな。自転車でくればよかった。でもまだ歩道には雪が残ってるし。
考えごとをしながらショッピングセンターの中を歩く。文房具売り場に向かっていた。シャープペンシルの芯とノートを買うつもりだった。
大きさが違う箱が四つ入ったエコバッグを肩にかけなおす。重たくはないが、かさばって持ちづらい。
手早く買い物を済ませて帰るつもりが、いざ売り場に着くと目移りした。
母さんには俺の好きなものを買っていいと言われたのに、目につくのは俺の好みとはかけ離れたものばかりで。
――あ。これいいな。
思わず手に取ったのは、メタリックブルーのシャープペンシル。全体的に細身で洗練されたデザインだが、キャップに軸と同じ色の猫型のチャームがついており、持ち上げるとゆらゆら揺れる。チャームは取り外せるみたいだけど、これがあることで抜け感があり、「かっこいい」の中に、「かわいらしさ」がにじみ出して、より魅力的に見えるような気がする。
――先生に持っててほしいかも。もちろん猫はつけたままで。
先生がこれを使っているところを想像して「似合わないな」と笑ってしまった時、まさにその人が、俺の右横の通路を通り過ぎて行った。
「えっ?」
あまりのタイミングの良さに、最初は幻覚かと思った。だけど、本物の健人先生だった。声をかけようと思ったが、隣にもう一人いるのが見えて、ためらった。先生は俺に気がついていないみたいだ。
シャープペンシルを棚に戻し、そろそろと店の外に出て、先生の姿を目で追いかける。隣を歩いているのは、セミロングの女性だった。先生よりも頭ひとつぶん背が低い。グレーのコートの下からは、ピンクの膝丈スカートと黒タイツ、ヒール付きの茶色いブーツがのぞいていた。
――ヒールを履いてあのくらいの身長差ってことは、相当小柄なんじゃないか。
女性がふいに後ろを振り返った。俺の視線を感じたのかもしれない。とっさに商品棚の後ろに隠れる。女性は、不思議そうに首を傾げると、前に向き直った。
彼女の顔が見えたのは一瞬だけだったけど、くりっとした大きな目が印象に残った。背中で手を組み、ぴょこぴょこと体を上下させて歩く後ろ姿は、かわいらしくて守ってあげたくなるような小動物を思わせる。
先生と彼女の向こう側から、女性二人組が歩いてきた。先生たちを凝視して、そのあと我に返ったように視線をそらしていた。二人が、俺がいる方に向かってくる。声をひそめて会話していたが、かなり興奮しているのだろう。俺にも内容がばっちり聞こえた。
「ねえ、今のカップル見た!?」
「見た見た! 美男美女! 芸能人みたい」
締めつけられるような痛みが走って、思わず胸をおさえた。
――先生のお姉さんや妹さんかもしれないじゃないか。確かめなきゃ。
きょうだいがいるという話は聞いたことがなかったが、いないという話もしていなかったはずだ。
ふらふらと先生たちがいる方向へ足を進める。幸いなことに、二人は俺の尾行に気づかないようで、フードコートに入っていった。俺は、フードコートの死角――トイレに通じる空間に身をひそめ、二人が席に着くのを待った。
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