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受験は団体戦 8
六月一週目の土日で県総体が行われて、俺たちの学校は惜しくも準優勝となり、支部大会への切符をつかみ取ることはできなかった。つまり、俺たち三年生はここで部活引退となる。
学校としては初の準優勝だったから、めちゃくちゃ頑張ったと思うし、コーチも部員も、お祝いムードの方が強かった。でも、あと少しで次の大会に届いたかもしれないと思うぶん、全然だめだった去年よりも悔しさが募った。
帰りのバスの中で、同級生や後輩と泣きながら笑った。
「悠里先輩。引退しても、たまに部活に遊びに来てくださいね」
引退。今まで習慣だった部活も、今度からは「遊びに行く」ことになるのか。全然実感がわかない。
「うん。ありがとう。息抜きに行かせてもらうよ」
こうして、俺の三年間のバスケ生活は唐突に終わりを迎えた。
でも、「よし、これから受験勉強に本腰を入れるぞ!」とスパッと切り替えられるわけがなく……。
放課後、教室で勉強しようと思うと、吹奏楽部が練習する音が聞こえてくる。七月の末に県大会があるらしい。三年生の中でも、部活が終わった人とそうでない人とに分かれ始めていた。
あの時俺が、シュートを決められていたら。相手からうまくボールを奪えていたら。もしかしたら俺も、今頃体育館で汗を流していたかもしれない。
考えてもしかたないことが頭の中をぐるぐると回る。
このどうしようもない気持ちを、誰かに聞いてもらいたいと思った。雑談を好まない横井先生は論外だし、近藤先生は三年生の担任かつ進路指導係ということで、去年よりも忙しそうだ。バスケ部の仲間は――。
こうやって候補を上げては、理由をつけて可能性をつぶしながらも、気づいていた。最初から、俺の頭の中には健人先生しか浮かんでいないことに。
――「誰か」ではなくて、健人先生に話を聞いてもらいたい。
ため息が出る。
もし会えたとして、俺は何て言うつもりなんだろう。先生に話したところで、何かが解決するわけではないのは分かっているのに。それでも会いたかった。「君なら大丈夫です。頑張ってください」と言ってもらいたかった。
俺の頭の中で健人先生が微笑んでくれて、それだけで涙がこぼれそうになる。
――先生。俺、頑張るから。待ってて。
気合いを入れて、シャープペンシルを握る。遠くからトランペットの音が聞こえてきて、唇を噛みしめた。
*
喪失感を抱え、うまく気持ちの切り替えができないまま一週間が経ち、大学共通テスト模試を受ける日になった。俺がA大に行く実力があるのか見極めるためのテスト。すごく緊張してきた。リュックには、健人先生が作ってくれた復習プリントを一枚、お守り代わりに忍ばせてきた。
机の上に鉛筆三本と消しゴムを出して、あとは全部リュックに詰め込んだ。こんなに緊張している模擬試験はないような気がする。いつも問題用紙を開く前から諦めていたから。
「荷物は全部廊下に出せよー。机の中のものはロッカーに入れろ」
近藤先生が、気だるげに教壇から声を発している。ふいに目が合った。少し微笑まれた気がしてぎょっとする。
――あの近藤先生が笑顔とか。明日雨が降るのでは!?
我ながらすごく失礼なことを考えていると思う。なんだか一気に緊張感が抜けてしまった。
「まさか、俺をリラックスさせるための近藤先生の作戦か?」と考え始めて、すぐに、「この短時間でそこまで考えられるわけがないだろう」と否定する。
俺の受験には、少なくとも三人の先生が深く関わっている。健人先生、横井先生、そして近藤先生だ。
廊下にリュックを運び出しながら、深呼吸をした。頑張ろう。今だけは勉強以外のことをすべて忘れて、俺の持つ力を全部注ぎ込もう。
席に戻り、目を閉じれば、健人先生の笑顔がまぶたの裏に浮かんだ。
『しっかり頑張ってください』
うん、頑張るね。心の中で呟いて、俺は目を開けた。
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