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受験は団体戦 10
「ありがとう」
俺は口角を上げて佐々木を見た。そんな風に思ってくれていたなんて知らなかったから、すごく嬉しかった。俺の味方は、こんなに近くにいたのだ。俺の微笑みをどう勘違いしたのか、佐々木が顔を赤く染めた。
「好きって言ってもあれだからな! 友達同士の『好き』だ!」
早口で額に汗をかきながら言うから、声を出して笑ってしまった。
「うん。分かってるよ。だって、佐々木、彼女いるじゃん」
ほっとしたように佐々木が息を吐き出した。
「悠里は、すごくいいやつだから、全部背負い込んじゃうのかもしんないけど、もっといろんな人に頼っていいと思う。俺も、話くらいなら聞ける」
「嬉しい。そう思ってくれてる人がそばにいるって思えるだけで、心強いよ」
にいっと歯を見せると、目をそらされた。
「……なんかこれ、恥ずかしいな」
頭をかいて、照れ笑いを浮かべている。
「……そうだね」
佐々木を見ていたら、俺まで顔が熱くなってきた。
「よし、この話おしまい!」
佐々木が、ぱん、と手を叩いた。クラスメイトのうち何人かがこちらを向いたが、すぐに視線が離れていった。
「そういえば悠里はどの大学狙ってんの?」
「A大だよ」
「げっ、俺より上かよ。てか、いつの間にそんなに優秀になったんだ?」
「まだまだ全然だよ。D判定だし。でも、あと半年あるし、夢はでっかく、だよ!」
両手を上に向かって広げてみせると、佐々木が目を三日月型にして笑った。
「ふは。そういうところも悠里らしくていいな」
「佐々木は?」
「俺はね、C大」
佐々木は首都圏の私立大学の名前を挙げた。
「え、都会の大学じゃん。佐々木、シティーボーイになるの?」
「シティーボーイ? 何それ、恥ずい。悠里、意味分かって言ってる?」
「分かんない。完全に雰囲気で言った」
「雰囲気かよ! でもまあ、都会への憧れっていうの? それはあるから、行ってみたくて」
照れ臭そうに笑う佐々木は、自分の選択に自信を持っているように見えて、かっこいいなと思った。
「応援してる!」
「ありがとう。お互い頑張ろうな」
「うん、頑張ろう!」
佐々木が差し出してきた右手を握る。健人先生とした握手とは違う。あれは約束の握手だったが、これは仲間同士の握手だ。「受験は団体戦」という、学年主任に言われた言葉の意味が、今初めて分かった気がした。
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