66 / 135

受験は団体戦 10

「ありがとう」  俺は口角を上げて佐々木を見た。そんな風に思ってくれていたなんて知らなかったから、すごく嬉しかった。俺の味方は、こんなに近くにいたのだ。俺の微笑みをどう勘違いしたのか、佐々木が顔を赤く染めた。 「好きって言ってもあれだからな! 友達同士の『好き』だ!」  早口で額に汗をかきながら言うから、声を出して笑ってしまった。 「うん。分かってるよ。だって、佐々木、彼女いるじゃん」  ほっとしたように佐々木が息を吐き出した。 「悠里は、すごくいいやつだから、全部背負い込んじゃうのかもしんないけど、もっといろんな人に頼っていいと思う。俺も、話くらいなら聞ける」 「嬉しい。そう思ってくれてる人がそばにいるって思えるだけで、心強いよ」  にいっと歯を見せると、目をそらされた。 「……なんかこれ、恥ずかしいな」  頭をかいて、照れ笑いを浮かべている。 「……そうだね」  佐々木を見ていたら、俺まで顔が熱くなってきた。 「よし、この話おしまい!」  佐々木が、ぱん、と手を叩いた。クラスメイトのうち何人かがこちらを向いたが、すぐに視線が離れていった。 「そういえば悠里はどの大学狙ってんの?」 「A大だよ」 「げっ、俺より上かよ。てか、いつの間にそんなに優秀になったんだ?」 「まだまだ全然だよ。D判定だし。でも、あと半年あるし、夢はでっかく、だよ!」  両手を上に向かって広げてみせると、佐々木が目を三日月型にして笑った。 「ふは。そういうところも悠里らしくていいな」 「佐々木は?」 「俺はね、C大」  佐々木は首都圏の私立大学の名前を挙げた。 「え、都会の大学じゃん。佐々木、シティーボーイになるの?」 「シティーボーイ? 何それ、恥ずい。悠里、意味分かって言ってる?」 「分かんない。完全に雰囲気で言った」 「雰囲気かよ! でもまあ、都会への憧れっていうの? それはあるから、行ってみたくて」  照れ臭そうに笑う佐々木は、自分の選択に自信を持っているように見えて、かっこいいなと思った。 「応援してる!」 「ありがとう。お互い頑張ろうな」 「うん、頑張ろう!」  佐々木が差し出してきた右手を握る。健人先生とした握手とは違う。あれは約束の握手だったが、これは仲間同士の握手だ。「受験は団体戦」という、学年主任に言われた言葉の意味が、今初めて分かった気がした。

ともだちにシェアしよう!