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重なりそうで重ならない 3
シャープペンシルの棚の前に立ったら、ホワイトデー前に先生と女の人を見かけた時のことを思い出して、わずかに胸が痛んだ。先生は友達でも恋人でもないと言っていたけれど、同じ大学にいて、俺よりもそばにいる時間が長いのだから、いつどんな関係の変化があったっておかしくない。
――先生、好き。やだ。誰にもとられたくない。
そんな考えがよぎって、苦笑いを浮かべる。とられるも何も、俺たちの間に直接の繋がりはない。教え子と家庭教師の関係だったのは過去の話で、今は母さんと美奈子さんの友情という一点でのみ辛うじて繋がっているような関係だ。
ちりりという痛みが、胸を焦がした。ため息を飲み込んで、目当てのものを探しはじめる。ここら辺にあったはずだという、記憶していた場所にはなかった。少し焦る。姿勢を低くしながら、首を動かす。目の端に猫が映った気がしてそちらに視線をやる。あった。メタリックブルーの軸、キャップに猫型のチャームがついている、「かっこいい」と「かわいい」が融合したデザイン。あの日と同じものが、まだ売り場にあったことに安心する。
久しぶりに見ても、やっぱりいいなと思う。手を伸ばそうとした時、その隣に、同じデザインでチャームだけ違うものがあることに気づいた。こちらは犬がついている。少し体を引いて見てみると、色も二色ずつあった。メタリックブルーとメタリックレッドだ。
――どうしよう。
俺は悩んだ。色はすぐに決まった。俺は赤が好きだし、先生は持ち物を見ていると、青や黒系の落ち着いた色が好きなようだ。問題はチャームだ。犬か猫か。
違う色を選んでしまったし、おそろい感を出すために、チャームは揃えたいところだ。先生のことを意識するようになってから、俺は猫モチーフのものに心惹かれるようになってしまった。もともと猫のシャープペンシルを買うつもりだったし、こっちでいいか、と手に取ってから思い出した。
「僕は犬派です」と言っていた先生。「君は犬っぽいですね」という言葉。三回まわって、ワン。おすわり。先生のぬくもり。強がり。
先生に抱き寄せられた時と同じように、ぐらりと目の前が揺れた気がした。商品棚に手をついて、体を支える。
犬にしよう、と思った。猫を戻してから、犬のチャームがついた、メタリックブルーとレッドのシャープペンシルを引き抜く。
――お願い、先生。離れていても、俺のことを思い出して。俺が先生の近くに行くまでの間、この子を俺の代わりにずっとそばに置いといて。
何気なくひっくり返して、値段を見て「うっ」となった。一本千円。想定していたよりも高かった。色違いのシャープペンシル、ここで諦めるか? そもそも、先生が受け取ってくれるどうか分からないけど、買うのか? でも、先生とおそろい。おそろいは、かなり魅力的だ。えいや、という気持ちで二本とも握りしめてレジに向かった。
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