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重なりそうで重ならない 4

 まだ朝だというのに、ギラギラという音が聞こえそうなほどの日差しに、目を細めた。 「晴れて良かったわね」  運転席から母さんが言う。俺は助手席のシートに体を預けて、「うん」とだけ返した。 「どうしたの? 元気ないんじゃない?」  母さんがフロントガラスから目を離して、俺をちらりと見た。 「眠くて」  あくびを噛み殺しながら、膝に乗せたリュックを抱きかかえる。今日はA大のオープンキャンパスの日だ。母さんが最寄り駅まで送ってくれて、そこから一人で電車とバスを乗り継ぎ、大学に向かうことになっている。 「そうなの? 乗り過ごさないように気をつけなさいよ?」 「分かってるよ」  ずいぶんとそっけない声が出てしまった。窓から景色を眺める。窓ガラスに、ワックスで髪の毛を整えた、少しだけ背伸びした自分が映った。今日のコーデは、肘まで隠れるだぼっとした白いTシャツに、黒いチノパン、スニーカー。昨日、鏡の前でいろんな組み合わせを試したから、変じゃないはずだ。あんなに悩むなら、制服を着ることにしてその時間を勉強にあてれば良かったと思ったけど、県をまたぐ移動なのに制服を着るのは、なんだか恥ずかしかったのだ。  ――それに、久しぶりに先生に会うんだし、ちょっとでも「いいな」って思ってもらいたいじゃん。  顔が熱くなる。それを隠すように、首を思い切りひねって、窓の外の風景をぼんやり見つめた。  昨日は、持ち物と服装のチェックをしているうちに夜が更けてしまった。布団に入ってからも、健人先生に会えると思ったら、緊張してうまく寝つけなかった。  ふわあ。あくびが出て、音まで漏れてしまう。 「……本当に気をつけてよ?」 「分かってるよ」  似たような会話を何度も繰り返し、母さんに心配されながら駅にたどりついたのだった。 *  オープンキャンパスの参加者だろうと思う人たちに囲まれながら、A大の正門をくぐる。私服の人が案外多くて、制服で来なくて良かったなと思った。それにしても、友達同士や親子連れなど、誰かと一緒に来ている人ばかりだ。中には、両親がそろっている人もいる。急に不安になってきた。俺は一人で大丈夫だろうか。 「こんにちはー」  女の人が「何でも聞いてください」という看板を持ち、大きな声を張り上げている。おそらく大学生だろう。俺はその人に近づいた。 「こんにちは」 「あ、オープンキャンパス参加者の方ですか?」 「はい」  彼女がにっこりと笑って、うちわを手渡してきた。A大の校章が印刷されている。 「教育学部はどうやって行ったらいいですか?」 「こっからずっとまっすぐ行くと、右側にカーブするんですけど、そこの道を入って行って見えた建物が教育学部棟です。中に入って受付をしてください」 「分かりました。ありがとうございます」 「楽しんでいってくださいね」  微笑まれて、少しだけ緊張が解けた気がする。俺はもう一度「ありがとうございます」と言って、口角を上げた。

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