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頑張ってきた自分を信じて 4

 翌日、予定通り昼過ぎにホテルについた俺は、宿泊用の荷物を預けて、駅に向かって歩き出した。近くのチェーン店の定食屋で昼食を済ませた。店を出て、駅前のバス停からバスに乗り込む。下見がてら、A大までの道を復習しようと思ったのだ。晴れているものの、足元には十センチくらい雪が積もっている。前回来たのは夏だったので、だいぶ街の印象が異なった。  一人がけの椅子に腰掛け、バスの揺れに身を任せると、先生に手をつながれた記憶が、ふわふわとよみがえってきた。  ――あれ、すごくびっくりしたな。  手をつないできた先生の意図は、いまだに分からないけれど、あの日一緒に過ごした数時間で、先生と心が通じ合った気がした。  流れていく窓の外の景色を眺める。同じ市内に先生がいると思うだけで心強かった。  大学前のバス停で降りる。バスの中では外していた手袋をはめ、マフラーを巻きなおし、歩き始めた。受験生と思われる人たちが四、五人、俺と同じように大学の方向に足を進めていた。  大学に近づくにつれ、なんとなく違和感をおぼえた。最初は「なぜそんな風に思うのだろう」と思ったが、前に進んでいくうちに、理由が分かってきた。正門の柱を背に、人が立っているのが見えたからだ。ほとんどの人がすり抜けて校内に入っていくので、門の前に留まる人物はとても目立っていた。  あの人は、あんなところで何をしているのだろう。訝しく思いながらも、俺は歩みを止めなかった。  あと五歩で正門に着くというところで、目を疑った。その人が着ているコートに、見覚えがあるような気がしたのだ。  ――あれはまさか。  足が動かなくなった。ぴたりと立ち止まる。俺の後ろを歩いていた人が、舌打ちをして横をすり抜けていった。通行の妨げになってしまった。本当に申し訳ない。  正門に立つ人物は、しきりに首を左右に動かして、人を探しているようだった。  ――俺の妄想? いや、幻だったら、こんなにくっきり見えるわけがない。  ゆっくり近づく。やっぱりそうだ。  視線を感じたのか、こちらを向いたその人は、俺を見るなり破顔した。その人――黒いダウンコートを着て、ネイビーのマフラーを巻いた健人先生が、真っ白な息を吐き出す。 「良かった。会えた」 「え……。どうして……」  あまりの衝撃に、言葉が思いつかない。 「先日、田丸さんから叔母に連絡が来ていました。君がA大の二次試験を受けると。『何かあったら助けてあげてね』と書いてありましたし、君が来ると思ったら居ても立ってもいられなくて」  先生は早口で言うと、目を泳がせた。  驚きと、嬉しさと、緊張と、戸惑い。いっぺんに押し寄せてきて、訳が分からなくなった。とりあえず、人の邪魔にならないように、大学の敷地に入り、門柱の裏に移動することにした。俺が動くと、先生もついてきた。 「今日の昼に駅に着くと聞いていたので、もしかしたら下見に来るかなと思って、待っていました」 「こんなところで?」 「はい」  俺は腕時計を見た。午後二時半。駅に着いてすぐこっちに来たわけではなく、ホテルや定食屋に寄り道したので、結構時間が経っている。日差しが出ているとはいえ、今は冬だ。寒い中、いったい何時から待っていたんだろう。 「会えるかどうかも分からないのに? バカじゃないの?」  口が滑ってしまう。 「そうですね」  怒られるかと思ったが、先生は笑った。 「自分でもそう思います」 「俺が下見に来なかったり、予定が変わって、到着時間がずれてたりしたら、どうするつもりだったの?」 「その時は『会えない宿命だったのだな』とその状況を受け入れて帰りますよ」  先生がなんでもないことのように言う。  ――外で立ちっぱなしで何時間も待った上で、俺に会えなくても平気なの? 全然意味分かんない!  心配しているのか怒っているのかよく分からない感情が芽生える。

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