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「君はチョコレートみたいに」2

 試練だ。スマートフォンの画面を見て、もう一度思う。これは試練だ。 『渡したいものがあるから、これからアパートに行っていい? 住所教えて』  再会から数日後、昼ごろに悠里から届いたメッセージだ。まだ既読はつけていない。  メッセージの通知音に反応して、何気なくスマートフォンを手に取った僕は、ロック画面でその文字列を見た瞬間、スマートフォンを取り落としてしまった。幸いなことに、ここは家の中で、カバーのおかげでスマートフォンは無傷だった。  ――悠里がうちに来る? どうして、わざわざうちに?  大学ではだめな理由があるのだろうか。家庭教師の時は、田丸さんが家にいたり、帰ってくる可能性があったりしたが、ここに来るということは、正真正銘二人きりだ。  考えた瞬間、身体中から汗が吹き出した。頭を抱えた。声にならない声が漏れる。  妄想だけでこの状態では、実物の悠里に耐えられる気がしない。おかしくなりそうだ。  そうこうしている間に、メッセージを受信してから十五分が経過していた。早く返信してあげなければ。でも、承諾か拒否か、どちらの返事をすればいいのか……。  スマートフォンをテーブルの上に置き、とりあえずコーヒーを飲んで落ち着こう、と立ち上がった瞬間、画面が光った。悠里からの追撃だった。 『だめ、かな?』  画面の向こうで小首を傾げる悠里が見えるようだ。  ――かわいい。ぜんぜんだめじゃない。むしろ大歓迎。拒否できるわけがない。うちに来てほしい。今すぐ抱きしめたい。  両手で顔を覆い、へなへなとその場にくずおれた。  こんなところは絶対に悠里には見せられない。恥ずかしすぎる――じゃなかった、年上の威厳がなくなる。悠里が来るまでに、なんとか気持ちを落ち着かせないと。  僕は深呼吸すると、スマートフォンを持ち上げた。 「試練だ」  わざと声に出してみる。頬をたたき、悠里とのトーク画面を開いた。 『お気遣いありがとうございます。何をいただけるのでしょうか? 部屋を片付けたいので、今から三十分以上時間が経ってから来ていただけますか? 位置情報を送ります』  送信ボタンを押す。  ベッド、テレビ、テーブル、二人がけのソファーがあるだけの部屋だし、物への執着も少ない方だから、片付けはほとんどする必要がない。三十分は、僕が「家庭教師モード」になるために必要な時間だった。いつも悠里に見せていた「僕」、つまり、冷静な「僕」にならなければならない。  ――最初は耐えられたとしても、「クールな自分」を長時間保てるだろうか。  頭を振って、不安を追い出す。悠里への返信を終えても、やはり試練であることには変わりないのだった。

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