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(遊園地)好きな人の前では 1

*  遊園地の入り口から、人の流れに身を任せて園内に入った。健人さんが右側。俺が左側。この立ち位置がやっぱり落ち着く。 「都会は人が多いね」  人混みを避けるように歩いているうちに、健人さんと肩が触れあった。一瞬、手の甲がぶつかった。離れていこうとする健人さんの手をつかまえて、軽く握る。 「そうですね。僕も、こんなに人がたくさんいる場所に来るのは久しぶりです」  健人さんは前を向いたまま、俺の手を握り返してきた。そして、指同士を絡ませるように、つなぎなおされる。恋人つなぎ、というやつだ。恋人。恋人になれたのだな、とじんわり思う。二人の脈打つ鼓動が手から全身に広がり、共鳴する。健人さんと一つの体になったような、そんな錯覚に陥る。  俺の心臓が、壊れそうなくらい激しく動いていた。こんなに健人さんを近くに感じるのは久しぶりだ。最近で言えば、大学で再会した日の、唇が触れ合う程度のキス、そして、付き合いはじめた日にした、少しだけ大人のキス。それだけ。俺が健人さんの家に遊びに行っても、指一本触れてこようとしなかった。特に、俺が旅行の提案をしてからは、妙によそよそしくなった。  ――健人さんは、俺とあんまり「そういうこと」がしたくないのかな。  横目で健人さんの顔を見る。右手に力を込めると、握り返してくれる。 「好き」  俺の口からあふれ出した気持ちに、健人さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに俺の方を向いて、きれいに笑った。 「ありがとうございます。僕も好きですよ」  ああ、ずるいと思った。その顔から、健人さんが俺を思う気持ちが伝わってきたから。  今までのつらい気持ちや不安な気持ちが、全部溶けてなくなってしまう。綿菓子のようなふわふわと甘い感情が、健人さんの目から俺の中に入ってきて、全身に広がった。  ――今回はこれ以上の進展が望めないとしても、もう充分ではないか。人前で手をつなぐのを拒まれなかっただけでも、大きな一歩。旅行に来た甲斐があった。  俺は自分の顔がゆるんでいくのを感じた。自然と口角が上がってしまう。ごまかすように空を見上げれば、乗り物が目に入る。 「あっ、ねえ。あれ乗ろう!」  俺は、左手でジェットコースターを指差した。健人さんの手が小さく震えた気がした。

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