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(遊園地)好きな人の前では 3
「手をつなげば、少しは恐怖がまぎれるかと思ったんです。でもやっぱりだめでした。情けない」
俺は健人さんの頭をなで続ける。
「嬉しいな。弱ってる先生を膝枕できるなんて、めったにないチャンスだ」
「すごく情けないです」
健人さんが細く短い息を吐いた。
「すみませんが、もう少しだけ、このままでいさせてください」
「分かった」
太ももの上に乗っている健人さんの頭は、熱くて重い。俺に全てを預けてくれているのだと思ったら、多幸感に包まれた。
「ずっとこのままでもいいよ」
囁くと、健人さんの唇がわずかに歪んだ。
「僕は、いやです。せっかく遠くまで来たのですから、もっと君とデートを楽しみたいです」
健人さんが「デート」という言葉を使ってくれたのが嬉しくて、心臓が跳ねた。
――ああ。俺、幸せだなあ。健人さんとデートしてるなんて、夢みたいだ。
「俺、今の状況でも充分楽しいよ。先生と一緒なら、何でも嬉しい」
健人さんは、ゆっくりと腕を動かした。目を開いて、ぼんやりとした顔で俺を見た。そして、ふっと微笑んだ。
「君は、優しいですね」
きゅん。また胸が締めつけられた。さっきから心臓への負担がとてつもない。このままだと、負荷がかかりすぎて早死にするのではないだろうか。すごく心配になるくらい、健人さんといるとドキドキがとまらなかった。
*
健人さんが起き上がれるようになったので、再び園内を二人で歩いた。
「次なに乗る? 観覧車、は、だめか……」
話しながら、観覧車も「高所」だと気づいて、即座に却下した。健人さんがにっこり微笑んだ。
「大丈夫です。外を見ないで、『これはただの地上に置いてある箱で、動いているのは錯覚だ』と念じれば乗れます」
「それ、観覧車に乗る意味全然ないよね? やめよう。先生は行きたいやつないの?」
「君に合わせますよ。……あ」
健人さんが立ち止まった。視線の先にはお化け屋敷がある。
「どうです?」
「いいよ」
声が震えた。
「やめましょうか」
あまりにもあっさりと言うから、「どうして?」と慌てた声が出てしまう。
「怖いんでしょう?」
真面目な顔で、俺を気遣うように見てくる。
「そんなことない! 先生は行きたいんでしょ? 行くよ」
「いや、あの――」
何か言いたげな健人さんの手首をゆるくつかんだ。
俺だって「好きな人の前ではかっこつけたい」。健人さんの手を引っ張って歩く。顔がこわばっていることに気づかれていませんように、と祈りながら。
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