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(ホテル)名前を呼んで 4
緊張したように結ばれた唇を、右手の親指でなぞる。
「んっ……」
悠里は、何かをこらえるように、ぎゅっと目をつむった。何往復もしているうちに、唇の力が徐々にゆるんでくる。そのまま親指を差し込んでみれば、悠里がちゅぱちゅぱと音を立てて吸いはじめた。
「それ、すごくえっちです」
わざと低俗な言葉を使った。悠里が目を開け、非難がましくにらんできた。思惑通りで嬉しくなる。
反対側の手を使ってパジャマのボタンを開け、合わせ部分から滑り込ませた。悠里が身を固くする。期待しているように尖った胸の蕾に触れた瞬間、僕の指に悠里の歯が食い込んだ。
「いっ」
思わず声が漏れた。悠里が口を開ける。抜き取った指から、唾液が糸を引いた。
「ごめん! 痛かったよね?」
申し訳なさそうな顔をして起き上がろうとする悠里の肩を、両手で押さえつけた。
「大丈夫です。気にしないでください」
不安げな悠里の瞳に見上げられ、ぞくぞくした。僕は欲情しているのだ、と意識した瞬間、己の欲望を抑えられなくなった。
「君はただ、自分が気持ち良くなることだけを考えればいいんです」
モンスターが牙をむいた。
ボタンを全部開け、パジャマの布を左右に開くと、悠里の身体をじっくり眺める。パジャマの上に、黒いボクサーパンツだけを身につけて横たわる姿が、全裸でいるよりも何倍もいやらしい。
「そんなに見ないで」
僕から顔を背ける悠里を追いかけて、唇にキスを落とした。舌を入れ、悠里を貪りながら、頭を右手でなぞる。
「んふっ」
耳に触れた瞬間、悠里の声が鼻から漏れた。
「ここがお好みですか?」
唇から離れて耳たぶを舐めれば、悠里の身体が小さく跳ねた。今度は両手を使って、触れるか触れないかの絶妙なタッチで、耳を執拗にいじめる。
「ふ……あっ。くすぐったい」
悠里がシーツをつかんで身をよじった。手を下に進め、首、鎖骨、胸に触れていく。
乳輪をなぞるようにして指で円を描く。ぷっくり膨らんだ胸の二つの突起にわずかに触れた時、悠里の腰が浮き上がった。乳首を指で転がしているうちに、悠里が腰を動かして、隆起した部分を僕にすりつけてくるようになった。
「や、やだ……。何これ、止まんないっ、んっ」
自分の気持ちいいところを探るように、角度を変えて、何度も何度もこすりつけられる。悠里の下着は湿り気を帯びていた。
「苦しそうですね。脱ぎましょうか」
腰にわずかに触れただけで、悠里の体が跳ねた。
「よ、汚れちゃう、から……下の、取って……」
悠里が腰を浮かせるので、まずはパジャマを引き抜いた。続いてパンツも脱がせた。畳んで隣のベッドに置く。
「俺ばっかり裸で、恥ずかしい……。先生も脱いで」
悠里に促され、身にまとっていたものを全て、悠里が着ていたものの隣に置くと、じっとりとした目で眺められ、落ち着かなくなる。悠里の視線が下がっていく。大きくふくらんだ欲望を見たその目に怯えの色が走ったのを、僕は見逃さなかった。
「大丈夫です。最初からこれは挿れませんよ」
鞄から指用のコンドームを取り出して、装着した。ローションを垂らすと、悠里がごくりと喉を鳴らす。
「なに、それ」
「ネットで買いました。君を傷つけたくないので」
「旅行前からヤる気満々、しかも、俺に挿れる気満々じゃん……」
悠里が少し笑った。
「違いますよ。君が上がいいと言うなら、自分に使うつもりでした。……いいですか?」
コンドームをつけた指を悠里に見せる。悠里が固い表情でゆっくりと頷いた。
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