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(ホテル)名前を呼んで 5

 片方の手で悠里の隆起したモノを刺激しながら、後孔に中指を挿れていく。 「う……、ん……っ」  初めは抵抗を示していた体も、徐々に僕の指を受け入れはじめた。  悠里の顔が、とろとろと(とろ)けていった。  最初から気持ち良くなれることは少ない、とネット記事には書いてあったのに、悠里は快楽に身を委ねているように見えた。  思い当たった一つの可能性を口にする。 「もしかして、自分で慣らしていました?」  悠里は答えない。僕から顔を背ける。 「後ろを使って、オナニーしましたか?」  悠里の羞恥心を煽るために、あえて「オナニー」と粒立てて言いながら、指を優しく動かして、中の気持ちいいところを探る。 「あっ……」  ある場所に触れた時、悠里の口から艶っぽい声が漏れた。僕は指を引き抜いた。 「もっとしてほしければ、ちゃんと答えてください」 「し、しました……。ごめんなさい」  悠里がなぜか謝った。興奮する。僕は、目を細めて悠里を上から下まで眺めた。 「君だって、挿れられる気満々だったんじゃないですか。僕にこうされることを想像して、自分で慰めてたんですか?」 「ち、違っ」 「かわいい」  中指を挿れ直してそう囁けば、悠里の唇が震える。ついばむようにキスをすると、悠里が目を閉じた。僕が指を動かすたびに、悠里はあえいだ。快感の波におぼれていくように、荒い息を繰り返した。 「苦しいですね。一回イきましょうか」 「へ? あ、……っ!」  前を触っていた手を、射精を導くためだけに動かせば、悠里の先から白いものが飛び出した。 「指、増やします」 「ま、って」  より敏感になった悠里が身をよじらせる。 「分かりました。もうしばらく、中指だけにしておきますね」 「や、そういうことじゃな……あっ」  時間をかけて、二本、三本と増やしていく。悠里の淫らな声と卑猥な水音が、僕の情動を浮き彫りにする。  ――悠里を僕のもので貫きたい。はやく、はやく。 ※  もう充分(ほぐ)れただろうと判断した僕は、悠里の中から指を抜いて、痛いくらいに硬くなった自分のそれにスキンをかぶせた。悠里の孔にあてがってから言う。 「じゃあ、いきますね」 「……んあっ」 「やっぱりやめますか?」  そう尋ねたのは、うるんだ悠里の目の中に、わずかな恐怖を見つけた気がするから。 「な、なんで……」 「怖がっているようなので。今日はやめましょうか」 「だめ……やだ」  身を引こうとした僕の腕を、悠里がつかんだ。 「本当はすごく怖い。だけど、先生と一緒になりたい。先生がほしい。ぜんぶ、ほしい。俺の中に、来て」  上気した顔でかわいらしいことを言ってくる。 「君はどれだけ僕を煽るんですか? これ以上進むと、もう我慢できませんけどいいんですね?」  悠里がこくんと頷いた。 「先生、お願い」 「健人」 「え?」 「名前。呼んで」  今更だと思う。このタイミングじゃないと思う。このやりとりは絶対に、悠里を押し倒す前に済ませておくべきだった。だけど、もうここまで来てしまったから。せめて、悠里との関係をもう一歩進める前に、きちんと線引きしておきたかった。ここで呼び方を変えなければ、一生「先生」と呼ばれ続ける気がして。

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