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白昼夢 6

俺は自己嫌悪に陥っていた。 何で俺は南にあんな態度しか取れないんだ? 潤の言葉に傷ついてんのか? この俺が・・・? もっと、素直に潤の言葉を聞いていれば良かったんだろうか・・・。 『そうですか、わかりました。  では遠慮なくをやらせて貰います』 ・・・その言葉に苦笑いをするしか出来ない俺がいた・・・ 舞台が楽日を迎える頃 俺の周りである噂が飛び交っていた。 『今回も潤の家に南、泊まりこむらしいよ』 『そこまでするのか・・・』 『なんだよ、含み笑いなんかして・・・』 『だってさ、何もないわけ無いじゃん』 ・・・皆、噂好きだな・・・ 「噂話する暇があるんなら舞台の事考えろっ!」 俺は自分の声に驚いた。 何、大声を出してんだよ、俺! そんな自分に俺はまた自己嫌悪に陥り 打ち上げの席で直ぐに潤達の稽古が始まると聞き 俺は南に今までの態度を謝りたくて稽古場まで足を運んだが・・・ 思ったよりも早く着いてしまった。 どうしたものかと悩んでいると・・・ 階段上から潤の声が聞こえてきた。 「今からは俺だけを見ろ!」 その声に俺の心臓が鼓動を早める。 俺はまるで呪文にかけられた様にゆっくりと声の方へと向かう。 半分開いたドアから見えたのは・・・ 南の唇を奪っている潤の後ろ姿だった。 その場に動けなくなってしまった俺を 南の虚ろな瞳が鏡越しに捉え 南は潤を突き飛ばし唇を拭う・・・。 「南?」 潤が南の目線の先にいる俺を挑戦的な瞳で見据えた。 「悪い!邪魔したか?」 「そ、そんな・・・」 南は見られた事に慌てている様だった。 ・・・俺はどうすれば良いんだ・・・ 「南、バック隅に持って行くぞ」 ん?バック・・・? ・・・例の噂のか・・・ 潤の勝ち誇った様な声音が気に入らない。 「いいよ、自分で持って行くから・・・・」 南はドアの側に置いていたバックを持つと 俺の横を俯いたまま通る。 「今日から潤の所に泊まんのか?」 「・・は・・い・・・」 俺の顔を見る事も無く通り過ぎる。 南、知ってるか? お前が俺の気持ちをこんなに乱してるのを! 「おはようございます!」 この重い空気を取り払ってくれそうなヤツが来た。 元気な声で入って来た梨花は稽古場が妙な雰囲気なのに気が付いたのか 「あれ?  僕、まずい時に来ちゃった?」 梨花は南達には声をかけず、俺の方に話しかけて来た。 「何かあったの?」 「いや、別に・・・お前こそ・・・」 「あ、僕?  僕は翔さんが心配で・・・ね」 そう言って笑う梨花の頭をクシャクシャにしてやる。 「ちょ、翔さん、やめっててば~!」 「お前はいつも明るくて、いいよな」 俺と梨花を見る南の顔が曇ったの見て 潤は尽かさず 「南、向こうで台詞合わせするぞ」 そう言って南の肩を抱きよせ俺達から離れようとしたが それを梨花が止める。 「何、そのバッグ・・・  また今回も南を潤ちゃん家に泊めるの?」 「悪いか?」 「別に・・・でも、もう十分に仲良いじゃん?」 「・・・・・」 「もしかして・・・潤ちゃん、他の目的があるとか?」 ・・・梨花、それ以上は・・・ 「梨花、その辺にしとけ。  潤にも南にも何か考えがあるんだろうしな」 「でも・・・変じゃない?  いくら芝居をいいものにしたいからって・・・  やり過ぎだよ!」 「梨花、やめろって!」 俺の怒鳴り声に梨花はビクリと身を縮めた。 「2人が考えてやってることだ!  お前がとやかく言う事じゃないだろ?」 「なんかさ、潤ちゃんって・・・  南の事になると人が変わっちゃうんだよね・・・」 「・・・・・」 「ほらね・・・そうやって黙っちゃってさ・・・もういいよ!  勝手に二人で好きなだけイチャイチャすれば?  潤ちゃんなんか・・・潤ちゃ・・ん・・なんか・・・」 梨花は泣きながら稽古場を出て行ってしまった。 「梨花!  おい・・・潤、どう言う事だ?  何で梨花は泣いてんだ?」 「・・・・・」 「説明しろ!  お前らだけの問題じゃ無い・・・」 「別に・・・  翔さんに話す事なんて俺と梨花の間には無い!」 潤は南の手を取ると俺の方を向き 「南を翔さんは突き放したんだ」 「は?何の事だ?」 「あの日、屋上で俺、言いましたよね?」 「おい、潤!」 潤の言葉に俺は焦ってしまう。 「結局、2人の問題だからってあなたは言った」 「それと梨花の事が関係あんのか?」 「・・・梨花とは付き合っていました」 「なんだ、過去形で話してるのか?  でもあいつの言動は過去形じゃなかったぞ!」 「俺は翔さんに話したことで吹っ切れた」 「吹っ切れた?」 「そう・・・もうあなたに気兼ねなんてしないって!」 ・・・潤は本気のようだ・・・ お前がその気なら俺も今のままって言う訳にはいかない。 だが・・・ 俺はどうしたいんだ? 南と・・・ 俺はどうなりたいんだ・・・? トップスターとして相手役の南を潤に奪われる事に 嫉妬・・・してるだけか? それとも・・・ 俺は・・・ 南を・・・ ・・・自分の気持ちを見失ってしまってる俺がいた・・・

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