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白昼夢 9

僕は夢を見ていた。 ・・・翔さんが助けに来てくれる夢を・・・ 朝の光がカーテン越しに僕を包み込む。 「ん・・眩し・・い・・・・」 身体を起こそうとして激しい痛みが全身を駆け抜ける。 「いた・・・っ!」 ・・・起き上がれない・・・ どうして・・・? ここは・・・・ ああ、そうだった・・・ 昨日、潤くんと・・・・ 部屋のドアが開いて潤くんが入って来た。 「目、覚めた?」 「う・・ん・・・」 「その・・・体・・・大丈夫か・・・・?」 ・・・心配そうに僕の顔を見ている潤くん・・・ 昨夜のあの潤くんは今は・・・もういない。 僕は潤くんと交わした約束を思い出していた・・・。 『潤くん・・・傍にいる・・か・・・ら・・・・  もう、どこにも行かないか・・ら・・  好きにして・・いいか・・ら・・・』 「南・・・?」 潤くんの声で我に返る。 「大丈・・夫・・・」 カラダを起こそうとして痛みで顔が歪んでしまった。 「南!」 「大・・丈夫・・だか・・ら・・・」 「ごめん・・・」 ・・・消え入りそうな声で謝る潤くん・・・ 僕はそんな潤くんを恨むことなんか出来なかった。 「謝るなよ・・・  そんなの潤くんらしくない・・・・」 僕が笑って答えると 潤くんの表情が少し明るくなった。 「南・・・」 「?」 「昨夜の・・・」 「うん・・・傍にいるから・・・ずっと・・・」 「み・・なみ・・・」 ・・・潤くんが僕を抱きしめる・・・ 本当に優しく・・・ 僕を労わるように優しくそっと・・・ 僕はこの胸の中にいればいい・・・ そして潤くんと・・・ ・・・僕の頭の中に翔さんが浮かぶ・・・ だけど・・・ もう、どうする事も出来ない。 ・・・僕は潤くんのものになったんだから・・・ 『翔さんが好き・・・』 今になってやっと気付いたバカな僕。 でも・・・ もうその想いも僕の中から消し去らなくては・・・ 潤くんの為に・・・ 僕の為に・・・ そして翔さんの為に・・・ 何も答えない僕に、また心配そうな顔で潤くんは僕を見る。 僕は潤くんにこの気持ちが伝わらないよう それだけを考えて今出来る精一杯の笑顔を潤くんに向けた。 「南、今日の稽古・・・」 「うん・・・行く」 「でも、起き上がられないだろ?」 「う・・ん・・・だけど・・・」 「さっき、連絡入れておいた」 「え?」 「熱が・・って、駄目だったか?」 「・・・・・・・」 「今日はゆっくりして明日は出て来いって」 「・・そ・・う・・・皆に迷惑かけちゃうね・・・」 「それは違う!  俺が無茶したからだ・・・南が気に病むことじゃない!」 「う・・ん・・・・」 「何か食べたいものとかある?  帰りに買ってくるから」 「うん・・あ、でも・・・無いかな・・・」 「じゃ、何か適当に選んでくるな」 「うん・・・」 潤くんが微笑んで僕の唇にキスをする・・・ 「じゃ、行ってくるから・・・・  今朝、冷蔵庫に飲み物と、あと色々と買って来といたから  食べれそうなら食べて・・・」 「うん・・・皆に宜しく伝えて・・・」 「わかった」 潤くんが出て行った。 玄関のドアが閉まり彼の足音が消えてから僕は泣いた。 ・・・翔さんを想って・・・ けど・・・ この涙で翔さんへの想いを洗い流すことを心に決めて。 その夜から潤くんは僕の唇に優しく触れるだけで 決してそれ以上の事はしなかった。 それから穏やかな日々が流れて行き 稽古も舞台も順調に進み 今日・・・ 千秋楽を無事に迎える事が出来た。 次は・・・ 翔さんの相手役として・・・ ううん、役者として演じ切らないと・・・ 潤くんの恋人になってしまった僕だけれど 舞台の上では翔さんの・・・ そこまで考えて、僕はまだ胸が痛むことに気付いたけど その想いにはしっかりと蓋をして鍵をかけて 僕の心の中にしまい込まなくっちゃ・・・ あの日・・・ もう、泣かないって心に誓ったのに・・・ 千秋楽の幕が降りても鳴りやまない拍手の中 僕は・・・溢れる気持ちを止められなくなって 涙が零れてきた。 ・・・まるで胸の痛みを押し出すように・・・

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