11 / 51

白昼夢 10

・・・もうどうする事も出来ないのか?・・・ 梨花と歩く煌びやかなネオンで照らされた夜の街は・・・ 俺にはただ・・・悲しいだけだった。 ・・・南・・・ 「翔さん、何とかしてよ!」 「どうすれば・・・良いんだ・・・?」 「だって・・・」 急に隣を歩いていた梨花が立ち止まり俺に懇願するが 何とか出来るもんならとっくに動いてるよ・・・ 何もできないから・・・ 何をしたらいいのか・・・ それすらも俺にはもう・・・分らないんだよ。 梨花の方に視線を向けると瞳には涙が溢れていた。 「梨花・・・」 俺は梨花を抱きしめる。 ・・・泣きたいのは俺の方なのに・・・ だが・・・ 劇団を背負ってる俺が下級生の梨花に情けない姿は見せられない。 俺はただ黙って梨花が落ち付くまで 抱きしめ背中を擦ってやり 梨花のマンションまで送ってやるしか出来なかった。 ・・・その夜、俺はやけにリアルな夢を見た・・・ 潤の家に乗り込み智を抱きしめ・・・ 潤から南を奪った。 南をこの腕に抱きしめ・・・ 潤の付けた唇の痕を俺のものにかえた。 俺は南の艶のある肌に唇をよせ・・・ 南は俺の腕の中で綺麗な声で啼いて・・・ 愛しそうに俺を見つめて果てる南にキスを・・・ ・・・何、見てんだか・・・ その後・・・ 潤と南が一緒に暮らしている事を 泣きながら言う梨花を何度も慰めた。 ・・・もう、南は俺の元には戻ってこない・・・ でも、抱きしめたい・・・この腕に。 あんな辛そうな顔・・・ 南に入団してからのこの5年間で一度も見たことが無かった。 なぁ、南・・・ 潤の事が好きじゃないのか・・・? 二人の公演の楽日 俺は南の楽屋へと勝手に足が向かっていた。 ・・・どうして此処に来てしまったんだ?・・・ 俺は・・・何がしたいんだ? 物思いに耽っていると後ろで物音がした。 「・・どう・・し・・て・・・」 「南・・・お前・・・・・」 「翔さん・・・」 「僕は・・・」 何を言えばいいんだ? 言って何が変わる? ・・・俺の思考が同じ場所を行ったり来たりしている・・・ その時、潤の冷たい俺を蔑むような視線と声。 「此処は俺達の楽屋だ。  挨拶でもしに来たんですか?  用がないなら出て行って下さい!」 「潤くん・・言い過ぎだよ・・・」 「南は黙ってろ!」 「潤くん・・・」 南が俺と潤の間でビクビクしている。 俺は又、南を困らせてんのか? 何も言葉に出来ないまま俺はドアを開けるしかなかった。 部屋を出て行く時、南の声が聞こえたような気がする。 『翔さんが好き』 その声に俺も心の中で呟く。 『俺もお前を愛してる』 潤、お前がどんなに南を想って身体を繋いでも心までは繋げない。 それを知って焦ってんだろ? だから、扉の向こうでお前は南を抱くんだろ? 俺が聞いてんのを分かってて・・・。 潤は分かっている。 南の心が俺にある事を。 そして、このままでは南を幸せに出来ない事も。 全部分かった上で、俺をズタズタにする為に南を抱くんだろ? それが・・・ もっと南の心を遠ざける行為だと知りながらも。 俺も・・・ 潤も・・・ 本当に馬鹿野郎だ・・・ 分かっているのに・・・ 俺は開いたドアを閉めた。

ともだちにシェアしよう!