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白昼夢 11

あの日以来、翔さんとは連絡を取っていない。 翔さんからも連絡は・・・ない。 でも、それで良かった。 僕は翔さんを忘れなくてはいけないのだから・・・ それに・・・ この公演が終わっても潤くんと生活をするんだから・・・・ 僕は稽古期間中に潤くんの部屋へと引越しを済ませていた。 翔さんの相手役といっても、それは舞台上だけの話。 プロとしてそれをこなすだけだ。 公演を終え楽屋へ行こうとしたら 楽日を観に来てくれていた梨花が僕に尋ねてきた。 「南・・・本当にこれで良いの?」 「・・・・・・」 「南、辛くないの?」 「・・・・・・」 「翔さんのこ・・と・・・・・」 「ごめん、その話・・・したくない・・・・・」 「南!」 「ごめん、梨花・・・もう決めた事だし・・・  それにもう・・・遅い・・よ・・・・」 「僕は、潤ちゃんの事・・・・」 「ごめ・・ん・・・」 「・・・・・」 梨花の瞳から涙がこぼれる。 僕は梨花も苦しめているんだ・・・・ ・・・ごめん・・・ その場にいることが出来なくなった僕は自分の楽屋へと向かうと そこには翔さんがいた。 「・・どう・・し・・て・・・」 「南・・お前・・・」 「翔さん・・・」 「僕は・・・」 そこまで言いかけた翔さんの言葉を潤くんの声が遮った。 「此処は俺達の楽屋だ。  挨拶でもしに来たんですか?  用がないなら出て行って下さい!」 「潤くん・・言い過ぎだよ・・・」 「南は黙ってろ!」 「潤くん・・・」 翔さんが部屋から出て行く・・・ 僕は翔さんを引き止めたかった。 ・・・そんな事許される筈も無いのに・・・ 翔さんの背中がドアの外に消えると潤くんは鍵をかけた。 そして僕の腕を掴み押し倒す・・・・ 僕は次に何が起こるか分かっていた・・・・ でも、もう・・・抵抗はしなかった。 ・・・潤くんのものになると決めたのだから・・・ 潤くんは荒々しく僕の衣装を剥ぎ取り肌に触れてきた。 彼の熱い唇がカラダに赤い花を散らせていく・・・・ 「あ・・っ・・・」 潤くんが僕の熱くなったモノに触れる・・・ そして潤くんの熱いモノを僕の中へと・・・ 「痛っ・・!!」 「南、力・・抜 いて・・・・」 「・・んっ・・いや・・・あ あ・・・っ・・・・!」 潤くんが僕を引き裂き僕の中で動く・・・ 激しく、かき回すように・・・ 「南は俺のものだ・・・・」 「あ・・潤・・く・・ん・いや・・っ・・・ん」 「南・・嫌なのか・・・・?  俺の事・・・嫌いなの・・・か・・・?」 「違・・う・・・好きにして・・い・・・い・・・・から・・・・  傍にい・・る・・・から・・・・だから・・・・・あ・・・・っ!」 「南・・・」 そう言うと潤くんは安心したのか さっきまで激しさはなくなり ゆっくりと僕の快感を引き出すような動きに変り それを感じ取った僕のカラダは潤くんを締め上げ 潤くんが僕の中で果てた。 ・・・そして僕も・・・ 「ごめん・・・」 潤くんは僕のカラダを綺麗に拭きながら何度も何度も謝る。 その言葉が今度は僕を・・・締め上げていく。 逃がさない・・・ 逃げられない・・・ 胸の中は翔さんを想う心と 潤くんを助けてあげたいのに愛することは出来ない気持ちとで もう僕は・・・おかしくなってしまいそうだった。 舞台メイクを落とし、着替えを何とか済ませたけど さっきまでの行為でボロボロになった僕は ひとりで立つことも出来なくて 楽屋を潤くんに支えられて出た。 扉の向こうには翔さんの姿がまだあった。 翔さんが辛そうな瞳で僕を見ている・・・ きっと何もかも聞こえてたんだろう・・・ 『このまま翔さんの胸に飛び込めたなら・・・ 』 そんな想いが僕の中を過ぎる。 でも、汚れてしまった僕を翔さんは受け止めてはくれないだろう。 それに、このまま潤くんを一人には出来ない。 僕はもう・・・このまま消えてなくなってしまいたかった。 その日から潤くんは夜になると不安になるのか 僕を激しく求めてきた。 ・・・僕はその度に意識が遠くなるの感じる・・・ その後、僕は外部の公演の仕事が入っていて 潤くんと離れて過ごせる稽古場や舞台が 僕にとっては唯一息が出来る場所だった。 潤くんとの生活で僕は窒息しそうになっていた。 でも、潤くんを独りには出来ない。 潤くんが壊れてしまうのが分かっていたから・・・。 僕は羽をもがれた鳥だった。 潤くんという籠の中に閉じ込められ 決して此処から飛び立つ事は許されない。 そんな息苦しさの中で外部公演が終わった。 ・・・次回は来春の翔さんと僕のお披露目公演・・・ 少し時間が出来た僕は 潤くんがTVの仕事でいない部屋で 久しぶりに独りの時間を過ごしていたら 翔さんのディナーショーの稽古が始まったと 梨花から電話がかかってきた。 「南、元気にしてた?  稽古場に顔出しに一緒に行かない?」 「・・・・・・」 「仕事、今はないんだよね?  なら、翔さんもずっと心配してたから・・・」 「え?翔さんが・・・どうして・・・?」 「翔さん、あれからずっと心配してたよ。  稽古場初日に南に会いに行ったのだって  雑誌の仕事をわざわざ休んで行ったんだ、知ってた?  楽日にだって・・・予定を空けて・・・  それは何故だか・・・南も分かるよね?  南が心配だからだよ。  南が大切だから・・・  あ!もちろん、僕もだけど・・・あの時はごめんね」 「そんな・・・謝らないでよ。  僕が悪かったんだから・・・」 「それは違うよ!  潤ちゃんが・・・ううん、潤ちゃんの気持ちを知ってて  止められなかった僕が悪いんだ。  もっと、僕がしっかり潤ちゃんを・・・本当にごめん」 「そんな・・・」 「南、もう良いんじゃない?  潤ちゃんもきっと分かってる筈だよ・・・」 「でも・・今はまだ・・・また、連絡するね・・・」 「うん、分かった。  待ってるから・・・」 電話が切れても僕は暫くスマホを手放せなかった。 『翔さんが僕を・・・』 ・・・涙が自然に溢れ出す・・・ 『会いたい・・・翔さんに・・・』 翔さんを想って涙が止まらない僕。 そこへ潤くんが帰って来た。 「南?」 「・・・・・・」 「みな・・み・・・」 「ごめん・・潤くん・・約束・・守れ・・・ない・・・・・」 「・・・・・」 「僕は・・翔さん・・・が・・・・」 「もう、それ以上は言わくて良いよ」 「潤・・くん・・・?」 「分かってた。  ずっと・・・どんなに俺が南を抱いても・・・  体に触れて俺のものにしても・・・  心は・・・俺のものにはならないって・・・・・」 「ごめ・・・ん・・・・・」 「良いんだ・・・南・・・俺じゃ無理なんだろ?  俺じゃ南を幸せには出来ない・・・  俺は南から笑顔を奪ってしまった・・・」 「潤く・・ん・・・」 「俺は南を悲しませたくない筈なのに・・・」 潤くんの瞳から涙が零れていた。 そんな潤くんを僕は抱きしめる。 そしてその涙を唇で拭う。 潤くんが僕を抱きしめた。 これが、最後の抱擁。 そして最後の口付け。 「ほら、俺の気持ちが変わらないうちに行けよ!」 「潤くん・・・」 「俺はもう大丈夫だから・・・」 「ありがと・・・」 「翔さんと幸せに・・・」 そう言って潤くんは優しく微笑んで僕の背中を押してくれる。 その潤くんの手の温もりが切なくて・・・ でも優しくて・・・ 僕はその温もりに見送られて翔さんの許へと走りだした。

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