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白昼夢 12

俺は南の事を想いながら クリスマスに向けたディナーショーの稽古に入っていた。 「翔ちゃん♪」 「今日もよろしくお願いします!」 「あいよ!今日も弾けてるね~」 「俺、この舞台を見せて笑顔にさせたい奴がいるんです」 「そうなんだ・・・翔ちゃんは優しいね!  惚れちゃいそう!!」 「もう、惚れてるでしょう?」 「言うね~!  きっと翔ちゃんの想い人も笑ってくれるよ!」 一緒に出演してくれる上級生との他愛の無い会話。 俺はそんな言葉の中で 共演者の皆から温かく見守られてる気がし それが・・・とても心地よく俺の心を癒す。 稽古が後半にさしかかった時 南が梨花と一緒に稽古場に顔を見せた。 ・・・南を見て俺の心臓が早くなる・・・ 梨花とにこやかに話してはいるが 南の顔色は悪く痩せていた。 何、話してんだ? あの日以来、南のあんな笑顔を見てなかったから 俺は一体、何が起きてるのか分からず南の方を見ていたら 梨花が俺の方へ向かって大声で 「南に見とれてんの?翔さん!!」 「何言ってんだ、梨花!!」 梨花が揶揄うように言う。 その言葉に梨花も心配してくれているのが滲み出ていた。 毎日毎日・・・ しつこく電話してきて『このままで本当にいいの』かと。 俺の周りにはイイヤツばっかで・・・泣けてくる。 「もしかして南が翔の想い人?」 「え?」 「劇団内は一応恋愛禁止ですが!・・・って  相手役になるんだもんなぁ・・・  ま、多めに見てやるよ!  さ、通しが始まるぞ。  南を笑顔にしてやれ!」 「はい!」 通し稽古が始まると南の顔色が良くなってくるのが 手に取るように分かった。 「今日はこれで終わろうか!」 演出家の声で朝から続いていた稽古が終わりを告げる。 一人、又一人と稽古場から帰って行く。 だが、俺は帰れずにいた。 稽古場には俺と南・・・ そして梨花しかいなくなった。 見かねた梨花が俺の所へ来て 「ほら、翔さん!  南の所に行ってやりなよ?」 「ああ・・でも・・・」 「南は翔さんに会いに来たんだよ」 「え?」 「僕が出来るのはここまで。  僕はもう帰るから・・・早く行ってあげて!」 そう言って笑う梨花。 梨花に背中を押され俺は南の所に・・・ 南の瞳が真っ直ぐ俺を見つめていた。 ・・・南・・・ ・・・お前、なんて顔をしてんだよ・・・ 「見に来てくれたのか?」 「うん・・・みんな、楽しそうで・・・  僕も出たかったな・・・」 「・・・潤は来てないのか?」 「うん、もうあそこには帰らない」 「・・・帰らない?  何かあったのか?」 「潤くんが・・・僕を幸せに出来ないって・・・  僕の笑顔を奪ってしまったって・・・」 「そうか・・・潤がそんな事・・・  南はそれで良かったのか?  全部、吹っ切れたのか?」 俺の言葉に頷く南。 「俺んちに・・・来るか?」 「・・・・・」 「来いよ!」 俯いていた南が涙を溜め俺を見つめる。 俺はそんな南がたまらなく愛しくて 南の腕を引き寄せると抱きしめた。 細くなってしまった南の身体を。 「ごめん・・・遠回りさせてしまった」 「そんな事ない・・・そんな事・・・ない」 「南・・・」 ・・・早く言ってしまえ、愛してると・・・ 「南・・・好きだ・・・・・愛してる」 「僕も・・・僕も翔さんが好きです」 ・・・南・・・ この温もりを俺がどんなに欲しかったか知ってるか? 俺を見る南の瞳が濡れ、南の唇が俺を誘う。 どんなに言葉を綴っても 南のこの唇の前には色褪せて聞こえるだろう。 俺は震えながら口付けを待っている南の唇を塞いだ。 背中に回していた南の指が俺のシャツを握り締める。 唇を離すと恥ずかしそうに俯く南が愛おしい。 「帰るか!」 「うん」 それから・・・ 俺達はベッドの中でお互いの気持ちを確かめながら抱きあった。 耳元で囁く。 「愛してる・・・」 首筋に唇を這わせると南の唇からは甘い吐息が漏れる。 「あっ・・・」 どんな事をされてたのか・・・ こんなに・・・ 身体に散乱している鬱血した場所に唇を寄せると 南の身体が反応する。 「翔さ・・あっ・・・ん・・・」 身体を反らせる南は色っぽく俺を冷静にはさせてくれない。 これじゃ、潤と同じ事をしてしまいそうで・・・ 落ち着け、俺! そう言い聞かせて、少しずつ南の身体を優しく愛撫していく。 心も身体も一つに繋いだ時 南の頬を伝う涙を俺は唇で吸いとった。 ・・・南、もう泣かなくていい・・・ 唇に軽く口づけ 少しづつ舌を絡ませ そして熱く絡んだ舌を味わう。 「ん・・・・んっ・・・」 唇をゆっくりと離すと南の唇から幸せそうな溜息がもれる。 「南・・・お前の唇は美味い」 その言葉に南が笑う。 「翔さんは・・・」 「なんだ?」 「キスが上手すぎる」 「・・・・・」 「照れてるの?」 「南、お前・・・そう言うのは反則だって!」 「うん、知ってる」 南は嬉しそうに笑って俺の胸に頬をよせる。 「翔さん・・・ずっと待っててくれたんだよね?」 「ああ・・・」 「もう・・・どこにも行かない。  翔さんの傍にいさせて?」 南のその言葉に俺は嬉しくて泣いてしまいそうになった。

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