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願い 1

『潤ちゃんが僕の事好きになるまで待つから・・・  ずっと・・・・待ってるから』 南がこの手から離れていった後 梨花が泣きながら俺に言った言葉。 何時も笑って傍にいてくれるお前に俺は甘えていた。 俺は梨花の本当の気持ちに 気付いていなかったのかもしれない。 否、気付こうとしなかった。 俺は梨花に何をしてきたんだ? ・・・こんな言葉を言わせてしまうなんて・・・ 梨花、ごめん。 もう少し待っててくれるか? もう少し・・・ 俺が南を忘れるまで・・・ もう少し・・・ ・・・でも、そんな時が来るのだろうか・・・ 翔さんと南のお披露目公演の稽古が始まった。 俺の相手役は梨花に決まった。 なのに・・・ どうしても南に視線が行ってしまう。 「潤ちゃん・・・」 「あっ、何だ?」 「ううん、なんでもない・・・」 梨花の言いたい事は分かっていた。 「大丈夫だ。  忘れるから・・・・・」 俺の顔を見上げ頭を横に振る梨花。 「潤ちゃん、無理しなくていいよ・・・  僕はいつまででも待つんだからね!」 「梨花・・・」 「さっ、稽古に集中!」 こうして俺はこいつの笑顔に癒されていくんだろうな・・・。 「潤、これから一緒に飯でも食いに行かないか?」 「翔さん・・・」 稽古が終わって翔さんから声をかけられた。 でも、隣には南が・・・。 「いや・・・すみません。  俺はこれから梨花と約束があるので・・・」 「そっか、じゃ、今度な・・・」 「はい」 嘘をついてしまった。 俺を心配そうに見ている南に笑顔を向けると ホッとしたように微笑む南。 その笑みに俺の胸は痛む。 ・・・まだ俺は南が・・・ 本当に南を忘れるなんて出来るのだろうか・・・? 「行けば良かったのに・・・」 「梨花・・・」 「まだ・・・好きなんでしょ?」 「・・・・・」 「そんな辛そうな顔して・・・」 「大丈夫だって言ったろ?」 「・・・・・」 「お前の方が辛そうだぞ!」 頭をクシャクシャにしてやると 梨花は無邪気な笑顔で俺を見る。 「さ、帰るか?」 「うん!」 部屋に帰り二人だけになると 梨花の肌を求めてしまう俺・・・ 「・・・潤・・ちゃん・・・あっ・・・」 「梨花・・・」 俺は梨花の肌を無我夢中で貪る。 俺の荒らしい愛撫に感じながらも 吐息と共に梨花が呟く・・・ 「んんっ・・僕・・・僕は・・・  南の・・・代わりでもいいから・・・」 「俺は・・そんなつもりじゃ・・・」 これでも俺は・・・ 梨花の気持ちを考えてるつもりだったが・・・ でも・・・ 本当にそうなのか? 俺は・・・ 結局、南が去ってしまった寂しさを 梨花の肌で埋めようとしてるだけじゃないのか? 「潤ちゃん・・・何処に行くの?」 「頭を冷やしてくる!」 俺は洋服を着ると表に出た。 抱いてる途中で梨花だけを部屋に残してでてくるなんて・・・ 何やってんだよ、俺! また・・・ 梨花を泣かせるようなことをして・・・ このままじゃ、駄目だ。 このままじゃ・・・ 何れ梨花が壊れてしまう。 そんな事、分かってるのに・・・ 分かってるのはずなのに・・・ 南が俺の中から離れて行ってくれない。 俺はこれといって行く当てもなく歩いていた。 気付けば近くの公園の外灯が目に入り近寄れば その薄明かりの下にはつい数時間前に別れた筈の姿があった。 「潤!」 「何でこんな時間に・・・どうしたんですか?」 「ちょっと話せるか?」 「はい・・・」 何故? 翔さんがこんな所にいるんだ? 「コーヒーでいいか?」 「はい・・・」 「まだ熱いから気をつけろよ!」 手渡された缶コーヒーをガードレールに腰掛けて一口含む。 「翔さん、どうしたんですか?」 「・・・一度、きちんと話したくてな・・・・」 「そうですか・・・」 溜息をつき夜空を見上げる俺に翔さんはポツリと言葉にした。 「お前を苦しめてるよな・・・ごめん」 「・・・・・」 「俺がお前から南を奪ってしまった・・・」 「いや・・・それは違います。  南があなたを選んだんだ。  俺じゃ駄目だったんです・・・」 「許してくれるのか?」 「許すも許さないも南が決めた事です。  俺には何も言えない・・・  ただ、もし南を泣かせたら・・・・」 「それ以上、言うな。  お前が怒ると怖いのは知ってるから・・・」 「そうなんですか?  俺、そんなに・・・」 「ああ、怖いよ・・・  でも・・・ありがとうな。  南の事は絶対に俺が幸せにするから」 「今更・・・  何、当たり前の話・・・してるんですか?」 俺の言葉に翔さんは苦笑いをしながら立ち上がると 缶をゴミ箱に投げ入れる。 カランカランと音を立てゴミ箱から缶が飛び出た。 「ヘタですね」 「言ってくれるな?」 「こうやるんですよ!」 そう言って俺は一回でゴミ箱に空き缶を命中させる。 それを見た翔さんはもう一度苦笑いし片手を挙げ帰って行った。 翔さんと話した事で気持ちがスッキリしている自分に気づき 笑みが出てしまう俺。 あっ・・・ 梨花・・・!! 俺は走って部屋へ急いだ。 玄関を開けようとした時 梨花が出てきた。 「梨花!」 何も言わず出て行こうとする梨花を俺は抱きしめる。 「離せよ・・・」 「梨花・・・悪かった」 泣いている梨花を抱えるとベッドにつれて行く。 「ごめん・・・もう泣くな」 「だって・・・」 「南の事はもう2度と言うな」 「潤ちゃん・・・」 「忘れるから・・・  お前の為に今日で南を忘れる・・・  好きだ・・・梨花・・・  俺の傍にいてくれ・・・梨花」 「・・・・・」 俺の今の気持ちを伝えながらキスをしたが それでも梨花は・・・ 不安そうな瞳で俺を見ていた。

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