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願い 2

あの日から俺と潤ちゃんの生活が始まった。 ・・・と、言っても殆ど僕の勝手な・・・ 押しかけ女房なんだけど・・・ でも・・・ 本音言うと・・・自信がなかったから。 やっぱ、潤ちゃんが南とどうにかなってしまいそうで・・・ また、僕だけ取り残されてしまいそうで・・・ 僕は潤ちゃんが好き・・・ 潤ちゃんはまだ南が好き・・・ 南は翔さんが好き・・・ でも、南と翔さんは・・ 何だか変な・・・四角形。   三角関係ならまだ・・・わかるけど。 僕にはこの形を変えられるだけの力があるのかな? 潤ちゃんと暮らし始めてから毎日が辛い。 離れていた時よりもずっと・・・ 潤ちゃんは多分、南を忘れる事なんて出来ないだろうな・・・ それが痛いほど分かるから僕は辛いんだ。 だけど『待つ』って決めたんだから・・・ でも、潤ちゃんは一緒に暮らし始めても僕に触れてこない。 『待つ』って苦しい。 『待つ』って淋しい。 『待つ』って何・・・? もう・・・潤ちゃんの馬鹿ヤロ~!! こんなに好きなのに・・・ この想いは一方通行。 僕の目の前にあるのは進入禁止と行き止まりの標識だけ。 だいたいさ、僕は何で潤ちゃんが好きなの? あんなに南狂いなのにさ・・・・ 何で僕がこんなに悩まされなきゃいけない訳? いい加減ムカつくよ・・・ でも・・・ 僕は潤ちゃんが好きなんだ。 こればっかりはどうしようもないんだよね。 きっと、潤ちゃんもそうなんだろうな・・・ 辛いね、潤ちゃん。 僕も辛いよ・・・・。 こんな時なのに 翔さんと南のお披露目公演で 僕は潤ちゃんとペアを組むことになった。 潤ちゃんはやっぱ稽古中も南をずっと目で追ってて。 相手役は僕なのに・・・ 稽古の休憩中に僕は苦しい胸の内を翔さんにぶちまけた。 「どうした、梨花?」 「翔さん・・・」 「もしかして・・潤・・か・・・?」 「う・・ん・・・・」 「何かあったのか?」 「何もないの・・・」 「なら良かったじゃないか?」 「良くないよ!!」 「え?何もないなら・・・」 「何もないから辛いんだってば!!」 「あ・・・ああ・・・そっか・・・・」 「・・そう・・・・・」 「一度、潤と2人で話してみるけど・・・・いいか?それで?」 「うん、お願いします・・・」 「わかった」 「あのさ、翔さん・・・」 「うん?」 「南とは・・・」 「ああ、大丈夫だよ。  心配かけたな・・・」 「良かった・・じゃあ・・・」 「梨花、あんまり考え込むなよ。   潤はまだ自分の気持ちに気付いてないだけだと思うぞ?」 「だと、良いんだけど・・・」 僕は泣きそうになったから稽古場を出て 暫くの間、ぼんやりと空を眺めてから戻った。 その日・・・ 稽古が終わると翔さんは僕に向けて目で合図を送った後 潤ちゃんを食事に誘った。 「潤!これから一緒に飯でも食いに行かないか?」 「翔さん・・・」 それを翔さんの隣で心配そうな顔で見つめる南。 ・・・南、ずるいよ・・・ そうやって潤ちゃんの心を放さないんだ。 「いや・・・すみません。  俺はこれから梨花と約束があるので・・・」 「そっか、じゃ、今度な・・・」 「はい」 二人の会話を聞いてホッとしたのかふにゃりと笑う南。 今度はその笑顔で潤ちゃんの心をかき乱すんだ・・・ ・・・南、やめてよ・・・ 南には翔さんがいるじゃん・・・ 潤ちゃん・・・ 僕は何時まで待てば・・・いい? 「行けば良かったのに・・・」 「梨花・・・」 「まだ・・・好きなんでしょ?」 「・・・・・」 「そんな辛そうな顔して・・・」 「大丈夫だって言ったろ?」 「・・・・・」 「お前の方が辛そうだぞ?」 潤ちゃんが僕の頭を撫でる。 ズルいよ・・・ 潤ちゃん・・・ そんな風にされたら僕は笑うしか出来ないじゃん・・・ 「さ、帰るか?」 「うん」 その夜・・・ 一緒に暮らし始めてから初めて潤ちゃんが僕に触れてくれた。 今日の南のせい? やっぱ僕は何時まで待っても 南の代わりにしかなれないんだね・・・・ それでも良いって思ってた筈なのに・・・ でも、やっぱさ・・・こんなの悲しい。 なのに出て来た言葉は・・・ 「僕・・・南の代わりでもいいから・・・」 「俺は・・・そんなつもりじゃ・・・」 「潤ちゃん?どこにいくの?」 「頭を冷やしてくる!」 僕の言葉に怒ったの? それとも僕の本当の気持ちがばれた? 潤ちゃんは部屋を出て行ってしまった。 僕を残して・・・ 待っても待っても伝わらない想い・・・ 帰って来ない潤ちゃん。 もう終わりにした方がいいのかな・・・? 部屋の窓から外を眺めていたら 勝手に涙が溢れてきて・・・止まらなくなった。 それから・・・ 一時間程して、潤ちゃんが戻って来たけど 僕は耐えきれなくなって出て行こうとしたら 「梨花!」 何も言わない僕を潤ちゃんが抱きしめる。 「離せよ・・・」 「梨花・・・悪かった」 泣いている僕を抱えると潤ちゃんはベッドに連れて行った。 「ごめん・・・もう泣くな」 「だって・・・」 「南の事はもう2度と言うな」 「潤ちゃん・・・」 「忘れるから・・・  お前の為に今日で南を忘れる・・・  好きだ・・・梨花・・・  俺の傍にいてくれ・・・梨花」 「・・・・・」 ・・・嘘・・だ・・・ 忘れることなんか出来ないくせに! 「嫌・・だ・・・!」 僕は突然、何もかもから逃げ出したくなって 抱きしめる潤ちゃんの腕を払いのけ 僕は部屋から飛び出した。 行く当て何て何処にもないのに・・・ 夜道を泣きながら歩いてたら ポケットの中で着信音が鳴った。 累からだった。

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