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願い 4

出て行ったまま帰らない梨花を待って 俺は朝方近くまで一睡も出来なかった。 稽古場に行くと梨花は何時もと変わらない様子で 皆の輪の中で笑っていたが 今日の俺は南と絡むシーンの稽古が多く 梨花からの視線をきつく感じる。 芝居の1シーン。 俺の店に訪れた南に演出家の指示でピーナッツを口に放りこむ・・・ 無邪気に口を開ける南に気持ちを揺さぶられる。 ・・・俺は南の事を忘れる筈だったのに・・・ これは演技なんだって頭では理解はしていても正直つらい。 こんな事でグラつく俺・・・ 忘れる事なんて本当に出来るんだろうか? 『こんな表情、いつも翔さんに見せてるのか?』 抱きしめたい・・・ 抱きしめて南を滅茶苦茶にしたい・・・ 「潤、セリフ!」 「あっ・・・すみません」 ・・・やってしまった・・・ 「じゃ、最初から」 演出家が『集中しろ』と言いたげに俺を睨む。 そんな散々な稽古が終わったのは23時過ぎだった。 「潤ちゃん、帰ろ」 「梨花・・・」 帰って来るのか? 「あぁ・・・」 「コンビニに寄って・・・お弁当で良いよね?」 「ああ、いいよ」 梨花と会話してるのに稽古場から出て行く 翔さんと南を目で追ってしまう自分が情けない。 「潤ちゃん・・・」 「分かってる・・・帰るぞ!」 梨花にどんな心境の変化があったんだ? 正直もう・・・帰って来ないと思っていた。 なのに・・・何時ものように声をかけてくる。 そして俺は・・・ 相変わらず南に想いを残しながら梨花を抱いていた。 何度も抱いているからこいつの感じる所は分かってるが・・・ 今夜はどうしたんだ? ・・・梨花の様子が違う・・・ 何故かキスだけは避けるように 俺が顔を近づければ嫌だと言わんばかりにすぐ逸らせてしまう。 欲望の捌け口にしていると言われればそうなのかもしれない。 でもな、梨花・・・ いくら南に想いがまだ残ってるとは言え 嫌いなヤツにこんな事はしない。 お前だって・・・ 待っててくれるって言ったじゃないか・・・ それなのに唇はダメなのか? だが、南を想って梨花を抱く事に罪悪感すら感じないのは こうやってすぐに戻ってくるこいつが俺は好きだからか? ・・・本当に梨花を好きになれればどんなに楽だろう・・・ 「お前、昨日誰の家に泊まったんだ?」 「累んとこ」 「累?」 「いいじゃん何処だって!!僕、考えたんだ・・・  潤ちゃんが南の事を忘れられないのなら・・・  カラダだけの関係だっていいかなって」 「梨花・・・」 だったら・・・ どうしてそんな辛そうな顔をするんだ? そう言いながらも・・・ 今にも泣きそうな顔してんのは誰だよ? それから稽古が進み公演が始まったが 梨花は相変わらず俺の所に毎日のように泊まっていた。 「ねぇ、潤ちゃん・・・」 「ん?」 「僕といて楽しい?」 「は?」 「は?じゃなくて、楽しくなんかないよね?」 「・・・いないと寂しいかもな」 「本当?じゃあこのままココにいても良いよね?」 「好きにしろ」 「ヤッター!」 何が『ヤッター!』なんだ? 梨花は一体、何を考えてんだか。 時々異常にハイになる梨花が痛々しかった。

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