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願い 5

公演最終日。 「梨花、感情移入しすぎてるな」 「翔さん・・・」 「どうした?  上手くいってないのか?」 「どう対応したらいいのか俺、分からなくなってきて・・・」 「お前に愛して貰いたいんだよ。  まだ・・・吹っ切れてないのか?」 「・・・・・」 「そうか・・・元はと言えば俺が悪いんだよな・・・悪かったな。  でもな・・・梨花が一番辛いと思う・・・・・このままじゃ・・・  どうにかしないとガラスのように壊れてしまうぞ、あいつ・・・」 家に帰ってからも翔さんから言われた言葉が 何度も俺の中でリフレインする。 『お前に愛して貰いたいんだよ。  ガラスのように壊れてしまうぞ、あいつ・・・』 辛いのは俺だって一緒だ! どうすれば南を忘れられる? どうすれば梨花をちゃんと想いながら抱けるようになる? スマホが鳴った。 『もしもし、潤くん?』 南からだった。 『南・・・どうした?』 『知ってる?梨花の事』 『梨花がどうした?』 『やっぱり知らないんだ・・・  累と何かあったみたいで・・・』 『え?』 累? そう言えば・・・ 稽古中、梨花は累の所に泊まったって言ってたな。 『最近の梨花、何かおかしいよ』 『・・・・・』 『二人のこと、心配だから・・・ごめんね。  こんな事、僕が潤くんに言える立場じゃないって分かってる。  けど・・・・』 『南、ありがと。  この事、誰にも言わないでくれるか?』 『うん。  分かってる・・潤くん・・・・ごめんね』 『もう良いって・・・  それより、翔さんとは仲良くやってんのか?』 『うん、大事にしてもらってる』 『そっか・・・なら、良かった』 『ありがと・・・  ねぇ潤くん・・・』 『ん?』 『梨花の事・・・愛してあげて・・・』 『ああ、分かってる』 南の気持ちが痛いほど伝わってきた。 ・・・俺は今まで何をやってたんだろ・・・ けど・・・ 一体、梨花は何をしてんだ? ・・・毎日、此処に帰って来るのに・・・ いつ累と会ってんだ? 南からの電話を切って考えていると 梨花が帰ってきた。 「ただいま・・・」 「どこに行ってたんだ?」 「別に・・・どこでもいいじゃん!  僕が何処に行ってようが潤ちゃんにはかんけいないでしょ?  それより、お腹空いちゃった。  潤ちゃん、なんか食べる物ある?」 「梨花!」 冷蔵庫のドアを開いて食べ物を探す梨花の背を抱きしめれば 「離して!」 その腕を払い退けられて拒絶された。 最近の梨花は自分の周りに壁を作り俺さへも入れようとしない。 「累と・・・累に抱かれたのか?」 「誰かに聞いた?  あ・・・潤ちゃんの愛しい南から?  南から聞いたんでしょ?  そうだよ・・・僕から誘った。  駄目だった?  潤ちゃんに責められる理由なんて何もないでしょ?」 「梨花・・・」 何で・・・ そんなに淡々と話が出来るんだ? 「累は優しいよ。  潤ちゃんみたいに南を想いながら僕を抱かないし」 「・・・・・」 「もういい?  何か食べたいんだけど」 俺がこんな梨花にしてしまったのか? でも・・・ 「梨花・・・出て行け・・・」 「いやだ」 「出て行け!」 「そんなに怒鳴ったって僕は出て行かないよ!  言ったでしょ、潤ちゃんとはセフレでいいって」 「今のお前を抱く気にもならない。  お前・・・本当にそれでいいのかよ?  俺が好きになるまで待つ・・・って・・・」 「じゃあ・・・じゃあ、どうすればいいの?  どうすれば良かったの?  教えてよ!  ねぇ潤ちゃん、教えてよ!」 食って掛かる梨花の今までにない激しい口調に 辛さと悲しみと俺に対する憎しみを知った。 そうだ・・・ 好きと言う感情は・・・ 行き過ぎた愛情は通り越すと憎しみに変わる。 それは・・・ 俺が一番知ってたことじゃないか。 普段ならこんなに感情を表に出さない梨花。 何時だって笑って俺の傍にいてくれた・・・ ・・・そんなお前を俺はこんな風にしてしまったんだな・・・ 泣いて俺の胸を叩く梨花の動きを封じると 強く抱きしめた。 「梨花・・・」 「潤ちゃんのバカ、バカ・・バ・・カ・・・・・」 「分かったから・・・お前の気持ち、分かったから・・・」 今の梨花を突き放す事なんて出来ない。 今、突き放してしまったら・・・ 本当に梨花は壊れてしまう。 唇を貪り俺は梨花の躰に お前は俺の物だという烙印を押した。

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