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告白 10

あれから・・・ 舞歌さんとは挨拶や舞台の話とか・・・ 他愛もない会話は交わしていたが 俺の舞歌さんへの告白には何も触れず 本公演が無事に千秋楽を迎え 地方公演の稽古日初日になった。 昨夜は何故かモヤモヤとしてしまい なかなか寝付かれず・・・ 結局、寝坊した俺は遅刻してしまう。 まだまだ下級生の俺は早めに稽古場に入り 色々と準備をしないといけないと言うのに・・・ 「すみません、遅れました!」 深く頭を下げる。 「湊~、遅い!」 「すみません!」 潤さんの怒鳴り声、久しぶりだな。 入団したばかりの頃はれいと一緒に 何かしでかしては良く怒鳴られたっけ。 「どうして遅れた?」 「寝坊しました」 「そっか・・・」 あれ? それだけ? 俺が不思議そうにしていると れいが耳打ちしてくる。 「湊、潤さんもさっききたばっかなんだって」 「え~?!」 思わず声がでてしまえば それを見ていた潤さんがニヤリと笑う。 ・・この人は・・・こうゆう所は子供なんだよな・・・ 「湊・・・色々と愚痴聞いてくれてありがとう」 「少しは落ち着いたのか?」 「まあ・・ね・・・」 「どうした?」 「湊はあの時・・・  始まりだって言ってくれたよね?」 「ああ、言ったけど・・・」 「なんか先が見えないし遠いよ・・・」 れいに却って重い荷物を背負わせてしまったか? でもな、簡単に諦められる恋じゃないんだろ? なんて言ってる俺も一緒なんだけどな・・・ 諦めるなんて・・・ どんなに重くても俺はこの想いを終わりになんかしたくないし 諦めるなんて・・・出来やしないよ。 れいは稽古中も浮かない顔だったが それでもなんとか台本読みに専念しようとしていて その姿が痛々しく見えて 今は何も言わずにそっとしておくべきか・・・ そう考えた俺はれいと同じく自分の台詞に集中する。 稽古が終わり帰り支度をしていると 舞歌さんから声をかけられた。 「湊くん、これから何処かへ行く予定あるの?」 「ま、舞歌さん・・・いえ、別にないです」 舞歌さんから誘いの言葉をかけられて 上ずった声で返事をしたら 俺の慌てぶりに舞歌さんが苦笑いしてて・・・ ・・・恥ずかしい・・・ 「じゃあ、このまま此処で待っててくれる?」 「え?此処って稽古場でですか?」 「うん、みんなが帰ったら話したい事があるから。  いい・・・かな?」 「はい!待っています」 ・・・何の話があるんだろう?・・・ あの時は舞歌さんの気持ちも考えず 自分の想いだけをぶつけてしまった。 あまりにも唐突すぎた告白には反省しかない。 それから30分・・・ 殆どの団員は帰ったようだった。 最後にれいが  「舞歌さんからいい返事が返ってくるといいね」 そう言ってくれたが・・・ 不安は消えないまま誰もいなくなった稽古場にいると 階段を駆け上がる音が・・・ 舞歌さんがコーヒーとサンドイッチを抱えて戻ってきた。 「おまたせ!お腹空いたよね?  湊くん・・・おにぎりの方が良かった?」 「あっ・・いいえ」 「そう・・・じゃあ食べよ」 「はい。いただきます」 舞歌さんはコンビニで買ってきたサンドイッチを開けて 俺に渡してくれる。 「ありがとうございます!」 この優しさに惹かれたんだったかな? いや・・・ 以前、舞歌さんが代役をやった時・・・ 役者として舞歌さんの凄さに俺は一番惹かれたんだ。 たった一日で台詞を覚え 翌日には通し稽古までやってのけた。 その時の舞歌さんはキラキラと輝いて・・・ 眩しかった。 「そんなに見ないでくれる?」 「・・・す、すみません」 つい、舞歌さんを見つめてしまっていたらしい。 「あのさ・・・湊くんは僕の事・・・  どうして好きになったの?」 そんな唐突・・・ でもないか・・・ 何て言えば・・・ 「代役の時・・・あの時の舞歌さん・・・  たった一日で台詞もダンスも全部覚えて・・・  俺にはそれが凄く輝いて見えたんです。  俺は・・・その時、舞歌さんを好きになったんです」 「え?」 「二年前の・・・」 「あぁ、あの時は・・・自分を追い込んでたから」 「一週間で本番でしたしね・・・」 「あんな事、2度と出来ないよ!」 そう言って微笑む舞歌さんが愛おしい。 ・・・抱きしめたい・・・ まだ何も返事をもらっていないのに そう思ってしまう。 「僕ね、湊くんに話さないといけない事があるんだ」 話って・・・ やっぱり俺の告白の・・・ 舞歌さんが俺の前に座り直す。 「湊くん、僕は・・・・」 「ちょっと、待って下さい」 「?」 俺の言葉にきょとんとした舞歌さんを見ながら 俺は深呼吸をして舞歌さんの前に正座をした。 例え返事がどんな言葉でも 舞歌さんが俺の為に返してくれる言葉だからこそ 俺はきちんと聞きたかった。

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