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恋愛 7

本公演の稽古が始まり 僕は久しぶりに稽古場へと足を運んだ。 「おはよ・・・・・・  湊、何だか嬉しそうだよね?」 「え?そうか?」 「・・・・・・デートしたんだっけ、どうだった?」 「教えない」 「どうして?  あっ、・・・そうなの?え?え?そうなんだ~!」 「シッ!声が大きいって!」 ・・・湊は舞歌さんと上手くいってるんだ・・・ 嬉しそうな顔してるよ、全く! あ~、見つめ合ったりなんかして・・・ 何なのこの2人・・・ いつの間に・・・ は~・・・ いいよなぁ・・・ そんな事を思ってたら湊に不意をつかれた。 「れい、あれから・・・」 その質問には触れられたくなくて 「何もないよ!」 即座に答える。 何も無い・・・ 何があるって言うんだよ? 「れい、大丈夫か?」 湊に何も答えたくなくて 僕は俯き膝に頭をぶつける。 「やめろって!」 それを見た湊が心配して声をかけてくれるんだけど・・・ 「だって・・・」 「れい・・・  累さんはあの時、何て言ったんだ?」 「・・・・・・」 やっぱり・・・ 何も答えられなくて・・・ そしたら湊が僕を慰めるように 髪を態とクシャクシャにする。 「お前から事を起こさないと始まんないかもな!」 「・・・僕から?」 「累さんはお前の事を好きなんだろ?  でも、付き合えない訳がある」 「湊・・・」 「だったらお前の方から少しずつ累さんの心を・・・」 湊なりのエールなんだと思う。 でもさ・・・ 今の僕にはそれも・・・ キツイ。 「無理だよ・・・今は無理だって!  もう、放っておいてくんない?」 僕はそれだけ言い放つと 湊から離れ屋上へと駆け上がった。 心配してくれている湊に酷い事を言ってしまった。 ごめんね、湊。 ごめん。 僕は・・・ 僕は、累さんが好きだ。 累さんも僕の事が・・・ でも今は・・・ どうする事も出来ない。 こんなに好きなのに・・・ 本当に好きなのに・・・ 「れい・・・」 「舞歌さん・・・」 泣きそうになって空を見上げていたら 舞歌さんが来てくれた。 きっと、湊が舞歌さんに話をしたんだろう。 「こんな所にいたんだ、お昼は食べたの?  ちゃんと食べないと良い演技が出来ないよ?」 舞歌さんは僕にパンとコーヒーが入った袋をくれた。 「舞歌さん・・・」 「食べて・・・ね」 「はい」 僕は中に入っていたメロンパンにかぶりつく。 その姿を見て舞歌さんが『何でも聞くよ?』って そんな風に僕を優しく見つめてくれるから 僕は溢れる気持ちを吐き出した。 「僕、湊に酷い事・・・  言ってしまって・・・」 「大丈夫だよ。  湊くんは怒ってなんかないし  それどころかれいの事を心配してるよ」 「・・・・・・」 「れいには累の気持ちが分からない?」 「・・・分からない・・・です」 「そっか・・・  累は累なりにれいの事、ちゃんと考えてくれてると思うよ>」 「でも・・・  もう・・・無理なんです」 「・・・本当にそうなのかな?」 「だって・・・」 「累ともう一度、向き合ってみたら?  逃げていても何も始まらないよ」 「けど・・・」 「そうやって、だって・・・でも・・・  そんな事ばっかり思っていたら累に伝えたい気持ちも  累がれいに伝えたい気持ちも・・・  何も伝わらないまま終わってしまうんじゃないかな?  れいの辛い気持ち、良くわかるよ・・・  だからこそ、もう一度だけ累にチャンスをあげてみてくれない?」 「・・・・・・」 「累もれいとちゃんと向き合いたいって思ってるはずだから・・・」 「・・・はい」 「良かった、そう言ってくれて。  それを食べたら下りておいでよ?」 「はい」 僕の背中を一つ、ポンッと叩くと 舞歌さんは『頑張って!』とだけ残して 稽古場へ帰って行った。 それから暫く空を眺めながら 舞歌さんがくれたメロンパンを食べて 色々と考えてみるけど・・・ やっぱり・・・ 答えはなかなか見つからなくて 胸の中に詰まったしこりを吐き出すように 大きな溜息を吐く。 ・・・そんな事したって何も変わりやしないのに・・・ メロンパンも食べ終わり 稽古場に戻ろうと踵を返した時 累さんがドアから顔を出した。 「あっ・・・れい・・・」 累さんの声に僕の胸がドキドキと鳴って 息が出来ないくらい苦しくなった。

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