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恋愛 11

累さんの部屋を一緒に出たのはいいけれど・・・ 僕は『着替えを取りに行きます」と言って 累さんのマンションの前で別れた。 だって・・・ そうでもしないとまた・・・ 泣き言を累さんに言ってしまいそうだったから。 ・・・さよならだ・・・ そんな言葉・・・ 累さんから聞きたくなかった。 僕は朝の陽射しを受けながら泣いた。 出勤途中の人達が泣いてる僕を 変な顔して見てたけど・・・ そんなのどうでもいい・・・ 僕は今、泣きたいんだ・・・ 泣いて、涙で累さんへの想いを流さなきゃ。 そうしないと・・・ 稽古場に行けない・・・ 一旦、着替えに部屋に戻って 顔だけでも洗おうって洗面台で自分の顔を見たら かなり・・・酷い顔だった。 でも、もう・・・時間ががない。 そのまま稽古場に行けば 真っ赤に腫らした瞼を見た湊が駆け寄って来て 昨日の事と今朝の事を訊いてきた。 流石に全部は話せなかったけど 累さんにさよならを告げられた事を話すと 案の定、湊が怒り出して 「れい・・・俺、累さんを殴ってくる!」 なんて言い出すから 「湊、やめてよ!  僕が・・・僕が悪いんだから・・・」 今にも累さんを殴りに行きそうになる湊を 必死に抑えながら自分の非を湊に伝えても 湊の怒りは収まらないのか 「お前は悪くない!」 「やめてって!」 「お前は悪くなんかない!!」 「ダメだからね・・・湊!  絶対ダメだから・・・」 「れい・・・」 僕を想って僕の代わりに怒ってくれる湊に また、泣きそうになる。 累さんだけでなく、湊まで振り回して・・・ 僕は一体、何してんの・・・? ・・・僕が梨花さんのことを気にしすぎてた・・・ 累さんは僕の事・・・ 好きだって言ってくれたのに。 どうしたらいいんだよ! こんなにも好きなのに・・・ 累さん・・・ 累・・・さん・・・ そんな想いのまま、稽古は進み 気付いたら昼食の時間になっていた。 「れい、ちょっと話があるんだけど」 「・・・梨花・・・さん?」 ボーっとしてて声をかけられたのもよくわからなかった。 何だろう? ・・・凄く怒ってるみたいだ・・・ 梨花さんは僕の腕を掴むと稽古場を出る。 「どこに行くんですか?  ・・・梨花さん?」 訊いても返事はなく 屋上まで腕を引っ張られて連れて行かれると 「どうして累の気持ちを受け止めてくれなかったの?」 いきなり確信を付く質問で。 その話を梨花さんが知ってる事に僕は驚く。 ・・・と言うより、その話まで累さんは梨花さんに・・・ 「・・・どうして・・・知ってるんですか?  累さんが梨花さんに話したんですか?  そうなんですか?梨花さん!」 「そういう事を気にしてるから、上手くいかないんだよ!」 「・・・・・・」 「れい、累は何も悪くない。  僕が・・・累の優しさにつけ込んで・・・」 「でも結局、累さんはあなたを抱いたんです。  あなたを・・・!」 「れい!責めるんなら僕を責めろよ!」 溢れ出した想いを梨花さんにぶつけたら 梨花さんは泣いて『累じゃなく、僕を責めろ!』と 何度も何度も僕に言う。 僕はどうしていいか分からなくなっていたら そこに潤さんがやって来た。 「れい・・・梨花も累も許してやってくれないか?」 「潤さん・・・」 「苦しんでんだよ、梨花も累も。  それに元はと言えば俺の優柔不断から起きた事だ・・・  俺がお前に謝る・・・すまなかった。  それでも、やっぱり駄目か・・・?」 「・・・僕・・・累さんに嫌われてしまった。  ・・・さよならだって・・・」 「そうか・・・それで納得できるのか?  れいはどうしたいんだ?」 「僕は累さんのことが好きです。  でも・・・もうダメなんです・・・」 僕の言葉に梨花さんが反応した。 「どうダメなんだよ!」 「もういいです・・・  梨花さんも、もう苦しまないで下さい。  これは累さんと僕の問題ですから・・・じゃ・・・」 僕はそれだけ言うと走って稽古場へ戻る。 稽古場のドアを開けようとした時・・・ 累さんが稽古場から出てきて・・・ こんなタイミングで鉢合わせしてしまうなんて・・・ 「あっ・・・」 思わず声が出てしまったけど・・・ 何も言わずに僕を無視して通り過ぎる累さん。 その時の累さんの顔を見た僕は悲しくなった。 なんでそんな顔してるの? 僕のせい? そうだよね・・・? ・・・僕が累さんを苦しめてる・・・ 「累さん!  僕・・・幸せになんかしてくれなくていい!」 「れい?」 「僕は累さんが好きだから・・・  累さんが好きだから・・・  幸せじゃなくても傍にいたいです!」 僕はありったけの想いを累さんにぶつけてみた。 梨花さんや潤さんが背中を押してくれたから。 なのに・・・ 「お前の中で梨花さんの事が引っ掛かっている限り  無理だよ・・・」 どうして・・・? 「もう、俺にはどうする事も出来ない」 そんな事を言う・・・の? 累さんは僕の言葉にも振り返る事もなく そのまま出て行ってしまった。 そうやって・・・ 僕を一人にしてしまうの? 精一杯の想いを伝えても無視するの? 助けても・・・くれないの? 僕一人でどうしろと? ・・・死んでしまいたい・・・ 死んだら楽になるのかな? もう、こんなの・・・イヤだ・・・・ 「れい?」 何もかも捨てて逃げ出そうと思った。 けど・・・ そんなこと許されるはずもなくて。 僕に気付いた湊に声をかけられたら 泣き言しか言葉が出て来なくって。 「湊・・・僕、もう・・・  どうしたらいいか分かんないよ・・・」 「ごめん、聞く気はなかったけど聞こえてさ。  れい・・・  このまま累さんと付き合ったとしても・・・  幸せにはなれないような気がする」 「湊・・・」 「好きだけじゃ一緒にはいられないんじゃないか?  お前が気にしてる梨花さんの事も認めないと・・・」 「どう認めろって言うんだよ!」 「ほら・・・な。  れい、出来ないだろ?  じゃあ、無理だよ。  このままじゃずっと・・・  累さんを責め続けるだけじゃないのか?」 「・・・・・・」 「諦めろとは言わない。  でも、もう少し大人になれよ。  相手を許す事だって必要だぞ!」 「許す・・・こと?」 「そうだよ、今のれいには出来なくても、きっといつか・・・  こんな事で悩んでたんだって笑える時がくるさ」 「じゃぁ、僕の気持ちは?  この今の気持ちはどうしたらいいんだよ?」 「それは・・・  これから悩みながら成長していけよ。  れいになら出来るって!  累さんが好きなんだろ?」 僕の為に言ってくれてるんだってことは分かる・・・ けど・・・ 理解するには・・・ もう少し時間が必要なのかも・・・ 累さん、ごめんなさい。 累さんが言った言葉・・・ 梨花さんや潤さんの想い・・・ 湊がくれたアドバイス・・・ 全部、僕の中でちゃんと整理しないと。 それが出来なきゃ・・・ この恋は前に進めないんだよ・・・ね? ねぇ、累さん・・・ もう少し待っててくれる? 僕が大人になるまで・・・

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