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Virgin Mary 1

何処かで俺を呼ぶ声がする 跪きまるで祈るように・・・ 小さな光だけの部屋。 腕の中でVirgin Maryが眠る。 馨さん・・・ 俺は聖人君子なんかになれない。 あなたのこと・・・ 俺は愛してるんだよ? 何時までVirgin Maryでいるつもりなの? 安らかな寝顔を見ていたら・・・ あなたの笑みを壊したくなくて無理強いはしたくない。 世界で一番大切なあなたを汚すようなことはしたくない。 でも・・・ あなたの心が見えない。 俺はあなたにとって何? 教えて欲しいよ・・・。 「おはよ、圭人!今日も晴れたね!」 「今日は早いんですね・・・」 「うん、来週からロケだからさ?  荷造りに一度帰ってこようかなと思って」 「そっか・・・気をつけて行ってきて下さいね」 「うん。  じゃ、行ってくる」 「はい。  いってらっしゃい・・・あ!待って・・・忘れ物」 玄関先で靴を履く馨さんの顎を持ち上げて 少し長めのキスをする。 いってらっしゃいのつもりで。 「んっ・・・」 「暫く会えないから・・・」 「もうっ・・・圭人は子供みたいだな」 そう言いながらも、なんでそんなに悲しそうな顔するの? 離れているのは身体だけだって思いたいのに・・・ これじゃまるで心まで離れてるみたいだよ。 俺はあなたの笑顔が見たいのに・・・ 馨さん劇団を退団してから 俺と過ごす時間が増えていくほど笑わなくなってる。 『おはよ』 『また、明日ね』 退団後に決まった初の連続ドラマ。 撮影先から送られてくるのはそんなメールばかり。 『あなたに逢いたい』と打っても返ってくるのは『ありがと』だけ。 俺が欲しいのはそんな文字や言葉じゃない。 馨さん・・・ あなたは俺に逢いたいと思ってくれてるの? それが知りたい。 それを知りいんだ。 2週間後・・・ やっと、馨さんが帰ってきた。 迎えに行くからと何度も言ったのに 一人で自分の部屋に帰り 連絡をしても『ごめん、疲れてるから・・・』の一言で切られてしまった。 やっぱり・・・ もう、ダメなのかもしれない。 俺じゃ、あなたの支えになれない? 俺じゃ、頼りない? 劇団の後輩だったから? せめて・・・ ダメならダメとはっきり言ってよ。 このままじゃ・・・ 諦めがつかないから。 『逢いたい、圭人に。  今、ものすごく。  ・・・ごめんね・・・』 真夜中のメール。 最初の一行を読んだだけで俺は部屋を飛び出す。 玄関のドアを開けるとそこに・・・ 馨さんがいた。 「今、送信したとこなのに・・・」 「馨さん、何やってるんですか!  風邪でもひいたらどーすんだよっ!  合鍵は?合鍵持ってるでしょ?  ・・・なんで入ってこないんですか!」 「ごめん・・・  真っ暗だったから・・・寝てるかなって・・・  もう、帰ろうかなって・・・・」 「もうって・・・・何時からいたんですか?」 「えっと・・・30分くらい前・・・かな・・・?」 「とにかく、中に入って!」 寂しそうに微笑む薫さんの手をとると 指先が冷え切っていた。 30分なんて・・・ 嘘だよね。 この冷たさは・・・ ホントにあなたって人は・・・ 風邪ひいたらどうするの? ドラマの撮影だってまだ全て終わった訳じゃないでしょ? ・・・何やってんだよ・・・ あなたらしくないよ、こんなの・・・ 「馨さんらしくないよ、こんなの・・・  俺が劇団に在籍していた時・・・  何時だって俺や下級生に言ってたじゃないですか・・・  役者は健康管理も仕事の内だって!  その馨さんがこんな事・・・らくし・・・」 「・・・俺らしいって何?」 部屋に迎え入れたものの まだ、冷え切っている体を少しでも温めてあげたくて 温かいコーヒーを渡しながら話す俺にあなたは小さな声で呟いた。 その問いに答えられない俺。 「だから・・・圭人の考える俺ってどんなんなの?」 「どんなって・・・」 「どんな時もライトを浴びれば笑顔で歌って踊って・・・  ファンの前に立ってる俺が圭人の言う俺なの?  微笑を絶やさないマリア様?キレイで、清らかな?  そうだよね・・・俺は圭人のVirgin maryなんだよね!」 あなたが自嘲気味に悲しく笑う。 「・・・知ってる?  俺、昔・・・入団したての頃、3期上の上級生と付き合ってた。  そう、男とだよ!  だから全然キレイなんかじゃないし  体だって清らかじゃない・・・  劇団が俺のイメージとして謳っていたような  清らかで微笑みを絶やさないマリア様なんかじゃない!  ましてやVirgin maryなんかでもないよ!」 「馨さん・・・」 「驚いた?イメージと違うでしょ?  だから・・・もう・・・  退団もして、劇団からも離れたのに・・・  圭人の前でまでマリア様でいるのは疲れたんだよ!」 「馨さん・・・」 「今まで一緒にいれて楽しかった。  付き合っていた上級生から突然、何の前触れもなく振られて  舞歌から憧れに近い告白をされて  舞台の上では翔に『愛してる』とか台詞言ってさ  恋人の役を演じながらも何が愛なのか分からなくなってた時に  退団する圭人となら都合の良い関係になれるかと思ってたけど  全然何もしてくれないしさ・・・  男同士のセックスで満たされてた体だし  セックスフレンドにでもなれれば欲求解消になると思ってた。  それなのに圭人は俺をマリア様と勘違いしてるみたいだからさ」 「何・・・・言ってるんですか?」 「は?じゃあ、圭人は何で俺に告白してきたの?  体が目的だったんだろ?  違う?  お互いに退団も決まってたし  俺が男とでもセックス出来るって知ってたからだろ?」 「馨さん・・・何・・・言って・・・」 「ん?別れ話だけど・・・・」 こんな言葉に・・・ 騙されない。 この人は今、舞台の上に立ってる。 観客は俺一人。 なら俺も・・・ 舞台に立とう。 同じ舞台に。 今、ここであなたに俺は勝たなきゃいけない。 俺が退団すると決めた日に どんな想いであなたに告白をしたのか・・・ それをあなたに・・・ 馨さんに今、ちゃんと伝えなくては! 「あっそ。  なんだ、じゃ俺、あなたのことイタダイテもよかったんだ」 「え・・・?」 「俺、ずっといつヤッテやろうか思ってたんだけどさ  あなたがあんまり清純ぶってるから  もうちょとその芝居に付き合ってやろうと思ってたのに」 「圭人・・・?」 「じゃあさ、別れてもいいから・・・一回やろっか?  どうせ初めてじゃないならいいいじゃん。  最後にやらせてよ・・・ね、馨さん?」 急変した俺の態度に驚いたのか 少し後ずさった馨さんの腕を捻り上げる。 やってて・・・ 言ってて・・・ 心が潰れそうだった。 「い、やだ・・・」 「なんで?いいでしょ?  今まで我慢してたんだからさ・・・  最後ぐらいイイ思いさせてよ?  ちゃんとしてやるからさ」 「やだ・・・い、やだ・・・」 「いつまで清純ぶってんだよ!  あ、分かった!  それで誘ってんのか?」 「ち、違う・・・こんなの・・・圭人じゃない・・・」 馨さんの瞳から綺麗な涙が零れた。 ・・・彼が舞台を降りた・・・ なら・・・俺もこの舞台から降りよう。 「じゃあ・・・馨さんの考える俺ってどんな俺なの・・・?」 腕を緩めそっと抱き締める。 「優しいだけの男?  頼り甲斐もないし、本音もぶつけられないような・・・  そんな男なの?」 「そんなことないっ!  圭人は・・・圭人は・・・」 「さっき言ったこと・・・半分は本音。  俺はいつでもあなたが欲しかった。  でも・・・あなたはいつも怯えていたから・・・」 「上級生と、付き合ってた。  それは本当なん、だ・・・  だから・・・圭人に、抱かれ、たら・・・バレる。  それが・・・怖くて・・・」 「セックスフレンドっていうのは?」 「嘘に、決まってる・・・だろ・・・  本当だ・・・よ・・・信じて・・・」 そんな事・・・ 言われなくても分ってます。 けど・・・ 俺はあなたの本心が聞きたいんだ。 俺の告白にどうして応えてくれたのか・・・ 「馨さん・・・俺のこと、どう思ってるんですか?」 戸惑う馨さんに畳み掛けるように言う。 「黙ったままなら、先に言わせてもらいます。  俺はあなたのことを愛してます。  過去は過去です。  俺は今のあなたを愛してます」 「俺は・・・」 「俺は?」 「俺は・・・圭人が好き・・・」 「好き?」 「愛して、る・・・  俺がどんなに素っ気ない態度をとっても圭人は傍に居てくれた。  過去の事だって・・・何も訊かずにいてくれた。  それが・・・心地よかった・・・  出来るならずっと・・・一緒に居たいって思ってる」 やっと・・・ 馨さんの気持ちが聞けた。 「じゃ、それでいいじゃないですか?  過去のことなんか忘れましょう?  お互い、30年近くも生きてるんだから  過去に何もないほうがおかしいですよ。  そうでしょ?」 俺の気持ちも馨さんに伝えられた。 なら後は・・・ 「もう別れるなんて言わない?」 「言わない・・・」 「最後じゃなくても・・・一回やらせてもらえる?」 「け、圭人!そんな言い方しないでっ!」 馨さんに言葉に安心してふざけてみたら 頭を一つはたかれた。 「ちゃんと・・・その・・・」 気持が通じ合った瞬間・・・ 恥ずかしそうに俺を求めて来る馨さんが愛しくてたまらない。 「あなたが欲しい・・・これならいい?」 「うん・・・」 ・・・おかえりなさい、馨さん・・・ これから・・・ すれ違っていた時間を二人で埋めよ?

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