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Virgin Mary 4

困った。 何が?って馨さんだ。 離れたくないって思ってくれるのは物凄く嬉しい。 でも・・・ その気持ちが仕事に影響するのはマズイ。 仕事は仕事としてこなさなければ。 俺と違って馨さんは退団後も芸能界の道を選んだんだ。 それを私情が影響して演技が出来なくなるなんてなったら 俺は・・・恋人として失格だ。 俺は退団後の馨さんを全面的にサポートしたくて 在宅ワークを選んだって言うのに・・・。 あの馨さんが上の空で芝居をすることなんてないとは思うけど 俺の存在が仕事の邪魔になるようなことだけは避けたい。 これじゃ・・・本末転倒だ。 俺は馨さんを守らなきゃいけないのに。 だから・・・ 俺は態と馨さんからのアプローチをはぐらかしている。 「・・・おい・・・圭人!」 眼の前に翔さん。 「うわっ!!」 俺が驚けば唾飛ばすなよっ!と翔さん叱られた。 「お前が相談したいって俺を呼んだんだろうが!」 「へ?」 「しかめっ面してるだけじゃ、分からないだろ?」 翔さんの言葉に喫茶店の壁に飾られていた鏡を見れば・・・ なるほど、眉が中心によって皺を刻んでた。 「馨の事だろ?」 流石、翔さん・・・ 馨さんと同期で3年間コンビを組んでいただけあって 突っ込む点を心得ている。 「昨日、馨と仕事が一緒だったんだよ。  ほら、劇団誌にあるだろ?  退団後、二人はどうしてる?みたいなさ・・・  そん時も今のお前と同じ顔、馨もしてたよ」 「え?馨さんが?」 『ああ』と答えてニヤリと笑う翔さん。 「下世話な話で悪いが・・・  馨とどうなってんだよ、お前?  あの朗らかな馨にあんな顔させるなんてまさか・・・」 「翔さん、誤解しないで下さいって」 「その言葉・・・信じて大丈夫なのか?」 「はい、俺は俺なりに考えて・・・」 「その考えで馨は悩んでるんじゃないのか?  あのさ・・・お前、心だけじゃなんともならないって。  馨もお前もいい大人だろ?  それくらい・・・察してやれよ」 ああ・・・ やっぱりそうだったんだ。 「馨のこと、まだ・・・」 「いくら翔さんでも、その質問にはお答え出来ません」 「じゃあ、訊かないけど・・・」 そう言うと冷めたコーヒーを口にし 『まずっ』と俺を睨みつける翔さん。 こんなに冷えるまで痴話話に付き合わせるなって事か。 「あの・・・馨さん、何か言ってましたか?」 最後に訊けば 「俺のこと嫌になったのかな?って言ってたぞ・・・」 もうこの話を終わりにしたいのか それとも深入りはいないぞってことなのか 素っ気無い返事が返ってきただけだった。 心を繋いできたつもりだったけれど・・・ 馨さんはそれを不安に感じていたのか? 心だけでなく・・・ カラダも繋いだほうが良いのだろうか? カラダまで繋いだら・・・ 互いに離れている時の辛さに耐えられないような気がして。 それは・・・ 違うのだろうか? でも・・・ 本当は俺も限界に来ていた。 馨さんが辛そうで途中で止めた日から もうどれくらいになる? キスをしたり 抱きしめたり それだけの関係から一歩進んで しっかりとした関係を結んでから 新しいドラマの撮影に送り出した方が良いのだろうか? それで馨さんの不安や淋しさが消えるのなら・・・ それも良いかもしれない。 俺は翔さんと別れると足早に自宅に戻った。 馨さんからの連絡通り 22時を過ぎた頃、馨さんがやって来た。 相変わらず、まだ一緒に暮らしてはいないけれど こうして俺の所に来てくれるのは・・・嬉しい。 「いらっしゃい。  雑誌の撮影はどうでした?」 「う~ん・・・何時も通りかな」 「そうでしたか・・・」 「これ、差し入れのシュークリーム」 「馨さんは食べた?」 「いや・・・圭人と一緒に食べようと思って・・・  それで連絡したんだ・・・」 「じゃ、コーヒー淹れましょうか?」 「ありがと」 「馨さん・・・疲れてるでしょう?  ソファーにでも座って楽にしてて下さい」 そう言ってキッチンにコーヒーを淹れに行くと 背中に視線を感じて振り向けば 俺を見つめる馨さんの視線とぶつかった。 「どうしたんです?」 コーヒーを俺の前に置いてくれる馨さんに訊ねる。 「ん・・・?  相変わらず無精髭が生えたままだなって」 そう言って笑った後 「圭人の背中・・・近いのに遠いなって思って」 ポツリと呟いた後、拙いことを言ったと言わんばかりに シュークリームを頬張る馨さん。 柔らかなクリームがたっぷり入っていたのか クリームが唇の端に少しついている馨さんを見て 愛しいと思った。 馨さん・・・ 俺の背中はそんなに近くて遠い? 「馨さん、ついてる・・・」 「え・・・?」 考えるより先にカラダが動いてしまった。 馨さんの唇の端についたクリームを そっと舐めとる。 その瞬間、ビクッと馨さんがカラダを震わせた。 「馨さ・・・ん?」 「ちょっと、驚いただけ・・・  イヤだったとかじゃないから・・・」 真っ赤な顔で俯いてしまった馨さん。 全く・・・あなたって人は! 「俺、あなたが欲しい・・・」 そう言えば 驚いて見上げた馨さん瞳は潤んでいた。

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