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第7話 積極的な王子
ぴちゃん。
水が落ちる音がする。
私はゆっくりと覚醒すると、いつもの景色ではないことに気付き、勢いよく身体を起こした。
「……ここは?」
呟くと、自分の声がやけに響いた。寝ていた所も硬く、ひんやりとしていてぶるりと肩を震わせる。見回してみると辺りは暗く、持っていたらしいランタン型のライトが転がっているだけだ。
「リュート、気が付いた?」
「……っ、ショウ様?」
少し離れた所から、ショウ様の声がする。ライトを持ってその方向を照らすと、ショウ様がこちらにやって来ていた。
「ショウ様、ここは一体……?」
ショウ様は私の隣に膝を抱えて座ると、洞窟に落ちたの、と呟いた。私はすぐさまショウ様のお身体を調べ、怪我が無いことを知ると、ホッと息を吐く。膝を抱えて座るのは、魔族の威厳を保つ為にもお止め頂きたいと、何度も申し上げているのだけれど、今回ばかりは見逃そう。
「ご無事で良かったです。直ぐにここを出ましょう」
私はそう言って立ち上がった。なぜこんな所に来てしまったのかは覚えてないけれど、それよりも大事なのはショウ様の命とお身体だ。こんな冷え冷えとした所にいれば、たちまちその命も消えてしまうだろう。
私はとにかく出口を探そうと、一歩踏み出した。けれど、ショウ様は私の裾を掴んで止める。
「無駄だよ……出口、探したけど……見つからないんだ……」
「そんな……。何か手はあるはずです。私が付いていますから、大丈夫ですよ」
私はショウ様に微笑みかけると、ショウ様は裾を握ったまま、俯いてしまわれた。ああ、やはり不安なのですね。大丈夫ですよ。
「……いや……」
「え?」
ショウ様が何か呟いたけれど、私には聞こえず聞き返した。裾を掴んだ手が震えだしたので、私は安心させるために再びしゃがむ。
すると急に視界がひっくり返り、また冷たくて硬い地面が背中に当たった。
「ショウ、様……?」
「……ここで最期なら、僕は後悔しないようにしたい」
なぜかショウ様は私を押し倒して上に乗っている。私は何が起きたのか把握できなくて、ショウ様の熱のこもった瞳を見つめるしかない。
ああ、ショウ様の瞳……やはり魔族の高貴な方の瞳は黒くて美しい……。
そんなこと思っていると、ハッと気付いた。
「ま、またこのパターンですかっ? いつの間に夢の中に誘ったんです!?」
「夢の中? 何それ……」
ショウ様はそう言って私の唇にショウ様のそれを這わせてくる。途端に脳が焼けそうな程に顔が熱くなり、やはりここは夢の中なのだと確信した。
そうなると、これはショウ様の魔力で反応しているということだ。冷静になれ、と私は心の中で何度も唱える。
「し、ショウ様……っ、私は先日お伝えしましたよね!?」
私はまだショウ様のお世話係をクビになりたくない。ショウ様に手を出したと、魔王であるお父上に知られたら、私は確実にショウ様のおそばにいられなくなる、とショウ様の肩を掴んで離そうとした。
「……だったらどうして、キスだけでこうなってるの?」
「……っ!」
ショウ様は後ろ手で私の股間を服の上から撫でる。ショウ様は淫魔だ、だからそれだけの動きで、私の身体はその気にさせられてしまう。
「ショウ様! お止めくださ……っ!」
「どうせここから出られないんでしょ? なら、気持ちいいコトして逝きたい」
するとショウ様は私のズボンを下着ごと下ろした。そしてショウ様も私の上に乗ったまま、全ての服を脱ぎ去ってしまう。
私は息を飲んだ。
暗い中でも分かるショウ様の、艶かしい程の白い肌と、胸の色がついた部分。そして硬くそそり勃った下半身をまじまじと見てしまい、恐ろしく美しい身体だ、なんて思ってしまう。
「ショウ様! その漢字はっ、い、色々とまずいです……って!」
ショウ様のウェーブがかかった漆黒の髪が、さらりと揺れた。その間から、もうごまかしがきかないないほどの熱を持った瞳が、見え隠れして背筋に電流が走る。
「リュート、本当は僕……ずっとこうしたかった……」
「な、何を……っ!? ──っ、うう……っ!」
ショウ様の、ずっと愛らしいと思っていたお尻が、私の切っ先に触れた。それだけで声を上げてしまいそうな程の快感を覚え、思わず息を詰める。
ショウ様の魔力のせいか、身体が一切言うことを利かない。私はショウ様にされるがまま、私の楔はショウ様の狭い粘膜に包まれてしまった。
「……ぁ、すご……っ、気持ち、い……っ」
ショウ様はうっとりとした表情で腰を上下に動かしている。それが嘘ではないことは、ショウ様の中が複雑に動いていることからも分かる。けれどそれは、私も刺激されているという訳で……。
「ショウ様……っ、ダメです! お止めください……っ!」
「どうして? リュートは気持ちよくないの……?」
動きながら、少し悲しそうな顔をするショウ様。ああ、この状況でそんな顔をしないでください……。
「すごく良いですけど! いや、そういう問題じゃなくて……っ、ああっ、ダメですってば!」
「……もう……うるさいなぁ……」
必死でイクまいと堪えていた私に、ショウ様は私の唇をご自身のそれで塞いだ。小さく柔らかな唇から、ちろりと舌を出されて、私の舌を絡め取られる。そしてきゅ、と軽く吸われるのと同時に、私の意識は真っ白になった。
◇◇
「……っ!」
私は飛び起きると、見慣れた景色が私を出迎える。私の自室……つまり……。
「またこのパターンかああああああああ!」
私はベッドの上に突っ伏し、布団を頭まで被って叫んだ。
ショウ様の魔力が及ばない場所での淫夢は、それはつまり、私自身が見た夢と言うことになる。どうしてよりによって、ショウ様との淫夢なのか。
「ああああああ……」
私は布団の中で、魔族にあるまじき膝を抱えた姿で、情けない声を上げたのだった。
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