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第23話 魔力と世話係

 私が夢の中でショウ様に顔射をしてしまってから数日後、なぜか私とショウ様は二人で旅行をしていた。それもあの、変態ドM眼鏡野郎から「あんな異空間にずっといたら疲れちゃうでしょう? HAHAHA!」と言われ旅行の手配も彼がしてくれたのですが、……嫌な予感しかしません。しかも異空間って何ですか。  そして今、私たちは温泉から宿の部屋へ戻るところだ。人間界の東方の国の民族衣装、『ユカタ』を着せられ、ショウ様とゆっくり歩く。  結果的に温泉はとても気持ちよかった。美肌効果があるというだけあって、風呂上がりも肌がツルツルしている気がします。  そして、ここまで何も無いのも怖くなってきました。あのトルンが、心ゆくまで楽しんでくれたまえ、とニコニコしていたのが、どうも引っかかります。 「ショウ様、もうあとは休むだけですが、楽しんでいらっしゃいますか?」 「うん……」  ショウ様は少し緊張した感じで返事をされる。大きく開いた胸元から、桜色の部分が見えて、私は視線を逸らした。……この民族衣装は、キチンと着用しないと色々見えてしまって困ります。  この旅行に来た時から、ショウ様は珍しく、ほのかに魔力を絶えず出していました。なので私もつい、ショウ様を意識してしまいます。私は仕事で来ているというのに……今夜が不安で仕方がありません。  私たちは部屋に戻ると、木と紙で作られた引き戸を開ける。中は植物を編んでできた敷物が敷き詰められ、何とも言えない青い匂いがします。  けれど、寝室に入って私は驚いた。床に敷いてあった布団は、おおよそ魔族が二人入れる大きさではなかったからだ。 「あれ? 私の寝床は違う部屋でしょうか?」 「いいんじゃない? 一緒に寝れば」  他の部屋も探そうと、足を向けたところでショウ様に腕を掴まれる。やっぱり、これをショウ様も変態ドM眼鏡野郎も狙っていたのですね。 「リュート、一緒に寝てくれる?」  上目遣いで私を見るショウ様。命令であればお断りする理由はないのですが、これは「お願い」でしょうか? 「……残念ながら、私は世話係の身。そのお願いは受け入れることはできません」  そっと、ショウ様の腕を外す。ショウ様は不安そうに私の顔を見上げ、それからその目は悲しげに伏せられた。 「世話係世話係って……世話係じゃなかったらリュートはどうするつもりなの?」 「それは……」 「僕が『洗礼』を受けた日、リュートはキスしてくれたよね?」  あれは何だったの? と尋ねられ、私は答えることができなかった。あの時は感情のまま行動してしまっていたから……つまりは、そういうことなのでしょう。 「ねぇ、僕は淫魔だよ? リュートが僕に欲情しているのなんて、すぐに分かるんだ。僕は『特殊』だし」  ショウ様はその場で、はら、とユカタから肩を出した。白い肌と、胸の桜色が露になって、私は視線を逸らす。 「でも、『気持ち』は分からない。こうやって確かめるしか、僕は方法を知らない……」  ショウ様の細い指が、私の手を取った。そっと握り、私の手はショウ様の胸へと寄せられる。  どうしてでしょう? ショウ様の魔力はうっすらとしか感じられないのに、私はどうしようもなく緊張しています。 「僕の魔力は特殊。現実では、相手に欲情されなければ発動しない」 「え……?」  ねぇリュート、と甘い声がした。それだけで腰の奥がゾクリとして、息を詰める。 「ほら、これだけで僕の魔力は溢れてくる。今までの世話係もそれは変わらないけど、殺さずに済んでるのは、リュートだけだよ」  そういえば私がショウ様の元へ派遣された時、ショウ様は、みな快楽堕ちして使い物にならなくなったと仰っていた。ショウ様はそれでも、私がショウ様を乱暴に扱うことなく、主人として接してくれたことが、嬉しかったと言う。ショウ様の魔族嫌いは、そういうところからもきているのか、と私は納得した。 「お母様やトルンは躍起になって、僕の魔力を引き出そうとしているけど。僕はこれでいいと思ってる」  僕を王子として扱ってくれる、リュートだけがいればいいから。ショウ様はそう言って、私の両手を自分の頬に当てた。 「だから教えて。リュートは僕の身体だけが目的?」 「……その聞き方は、ずるいです」  頭まで痺れるような甘い囁きに乗せて、ショウ様の香りが漂ってくる。ショウ様は私の手をそっと撫で、指先に触れるだけのキスをした。 「聞きたいの。リュートの気持ちを」  私は目眩がして目を閉じる。今すぐにショウ様を掻き抱きたい衝動を抑えて、私はショウ様のウェーブがかかった艶やかな黒髪を撫でた。  顔が熱い。鼓動が早くなる。呼吸も荒くなって身体は興奮しているのに、心の中は一つの感情で占められていた。 「……愛しています。ショウ様……」  そう呟いた途端、ショウ様は私の胸に飛び込んできて、ぐい、と首の後ろを引き寄せられる。ショウ様の唇は、自分と同じものとは思えないくらいの柔らかさで、私はすぐにその感触と行為に夢中になってしまった。 「ショウ様、……ショウ様。……貴方は本当に愛らしいお方だ」  口付けの合間にそう告白すると、ショウ様はぎゅうぎゅうと私に抱きついてくる。胸に顔をうずめて、表情が分からないので少し寂しい。すると鼻を啜る音がしたので、私は再びショウ様の頭を撫でた。 「リュート、僕と結婚して」 「……かしこまりました」  先程、「これは命令だろうか?」なんて考えていた、私のセリフとは思えないくらいの即答。ええ、浮かれてたんですよ、きっと。  可愛いショウ様。私はショウ様のお顔を少し強引に上へ向かせると、涙で潤んだ瞼に口付けをした。  もう、自制できそうにありません。

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