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第32話 離婚危機と世話係

「……という訳で、ショウ様と何度か触れ合ってみたものの、ショウ様には全く兆しがなく……」  ショウ様のご病気を告白されてから数日後、私たちはトルンの元へ相談に来ていた。こう見えても王族に仕える研究員です、知識だけは本物なので頼ってみましょう。 「うーん、心因性なのは間違いないんだよ、身体に異常は見つけられないからね」  珍しく真面目に話すトルンは、指で眼鏡を上げた。しかし何かを思いついたようにハッとして、「待っててくれたまえ!」と部屋を出て行き……すぐに戻ってくる。その手には本が抱えられていた。 「確かこの本に……」  持ってきた本を開いてパラパラと捲るトルン。そして「あった!」と指を差す。 「ドラゴンの尻尾を煎じて飲むと、効果があるようだよ? ただ、希少性が高くて探すのも……」 「行きます。倒しに」 「リュートっ、そこまでしなくてもっ」  即答した私に、ショウ様は心配そうに眉を下げた。お優しいですね、ショウ様は。 「いえ、これもショウ様の沽券……いや、股間のためです。何より、ショウ様に元気を取り戻してほしいので」  あ、元気って言うのは下半身だけの話じゃないですよ、と私は微笑むと、ショウ様は感動で目を潤ませていました。  かくして、私のドラゴン探しの旅は始まった。……のですが、長くなるので割愛します。ええ、作者が「めんどくさい」と言っているので。誰のことか分かりませんが。  ◇◇ 「リュート!」  旅立ってから二週間後、私はショウ様の元へ無事に帰ってきました。色々と幸運が重なり、すぐにドラゴンが見つかって、サクッと倒してきた次第です。  駆け寄って抱きついてきたショウ様を抱きとめると、ショウ様は泣きながら、無事でよかった、と仰る。 「ショウ様の為です。死ねるわけないじゃないですか。それに……」  私はドラゴンとの戦いの様子を話した。  ドラゴンは知性があって話すことができました。大人しく尻尾を渡して欲しいと言うと、ドラゴンはこう言ったのです。 「なにゆえ我の尻尾を欲する? と。私はショウ様の沽券と股間の為です、と答えて問答無用で切りつけました」 「……」  ドラゴン可哀想に、という声が聞こえた気がしましたが、聞こえなかったことにしましょう。  私たちは早速部屋に戻り、ドラゴンの尻尾を干物にするべく、窓際に吊す。帰り道で既にだいぶ干上がっていましたが、パリパリになるまでもう少し、時間が掛かりそうです。 「ではショウ様、私は仕事に戻りますので……」  ショウ様の為とはいえ二週間も空けてしまったので、仕事の遅れを取り戻そうとすると、ショウ様に止められた。 「リュート……僕は寂しい。世話係してた方が一緒にいられた……」 「……申し訳ありません。ですがもうすぐ落ち着きますので……」 「もうすぐっていつ!?」  ショウ様に抱きつかれ、行かないでと縋る姿を見てしまったら、この場を去るなんてことできません。 「そりゃあ、僕が体調悪かったのもあるよ? けど、僕が誘わなきゃ添い寝もしてくれない!」  私が世話係であれば、ショウ様の一声でショウ様の望み通りに動きますが、今は夫婦で対等です。もちろん、私も二週間も留守にしてしまいましたし、ショウ様の願いは限りなく聞いて差しあげたいのですが……。 「こんな生活なら、リュートが世話係だった方がよかった! 離婚した方がいい!」  腕の中で、大泣きしながら叫ぶショウ様の言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けた。  離婚……離婚ですって!? 私はこんなにショウ様のことを思っているのに。ドラゴンだって倒してきたのに……! 「し、ショウ、様……」 「離婚して僕の世話係に戻ってよ!」  また離婚って言った!!  私はあまりの衝撃に言葉を失っていると、ショウ様はぎゅうぎゅうと私を抱き締めてくる。言葉とは裏腹な行動なのに、私はその真意をショックで見抜けずにいました。  ぼたぼたぼた、と私の頬を伝って何かが落ちる。 「ショウ様……お願いですから、離婚なんて言わないでください……」  情けなくも私は泣いていました。そして、こんなきっかけで泣いてしまうほど、私はショウ様のことを愛していたのだと思い知る。  ショウ様は私の声が震えたことに気付いたのでしょう、涙目で私を見上げると、背伸びをして顔を近付けてきた。 「……」  ちゅ、と優しいキスの音がする。ショウ様の唇は、やはり驚くほど柔らかく、ずっと吸い付いていたいと思わせる程だ。 「……ごめん、リュート……」 「ショウ様、本当に離婚だけは……」 「分かったよ……ごめんね?」  ショウ様の愛らしい瞳が、困ったようにこちらを見つめている。私はもっと口付けがしたくて、ショウ様の頬に顔を擦り寄せた。 「ん、リュート……」  ショウ様も抱きしめ直してくれる。よかった、本当に拒否はされていないようです。  私は口付けをしながら、ショウ様の細い腰を撫で上げた。するとショウ様は甘い吐息をつく。相変わらず敏感なショウ様のお身体は、淫魔でなくとも私を楽しませてくれます。  そして私の手は前に回り、ショウ様の胸をさすった。男性なので当然膨らみはないのですが、ここも柔らかくてつい、服の上からも摘んでしまいました。 「ぁ、ん……っ」  ひくん、とショウ様の腰が震える。私は構わずそこをくにくにと摘んで揉むと、ショウ様の顔が歪み、その場に座り込んでしまった。 「え? え? ショウ様、どうなさいましたっ?」 「ごめん、お腹いたい……」 「ええっ!? す、すすすすみませんっ」  私は慌ててショウ様を抱き上げ、ベッドに寝かせると、ショウ様はお腹を押さえて丸まってしまう。 「すみませんまだ全快ではなかったですよね私としたことが……っ」 「大丈夫、リュート……」  慌てる私に、ちょっとお腹がキューッてなっただけ、と治まってきたのか起き上がったショウ様。……本当に、何かの病じゃないですよね?  心配が顔に出ていたのでしょう、ショウ様はもう一度、大丈夫と言うと微笑んだ。ああ、早く以前のようにイチャつきたいです。そのためにも、溜まった仕事をまず片付けなければ。 「ではショウ様、ゆっくりなさっててください。私は超特急で仕事を終わらせてきます」 「うん、頑張ってね」  私はそっとショウ様の髪を撫でると、ショウ様はうっとりした顔で微笑んで、見送ってくださった。

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