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Trick or treat2

スワローがピジョンの胸元をいじくりまわす。 「なっ……、」 弟の暴挙に絶句、頭が真っ白になって抵抗すら忘れる。 吐息に乗じた笑いは揶揄の気配を色濃く含み、ピジョンの敏感な場所を刺激する。 「~~~~~~馬鹿、こんなところで……ッ、子どもたちがいるんだぞ!?」 「関係ねえよ、バレて困るのはお前だ」 「そっちも恥かくだろ!?」 「見せ付けてやるか?かまわねーぜ俺は、性教育の一環だ。ハンターが吸血鬼に喰われるとこ見たらトラウマになるかもしんねーけど」 扉一枚隔てた向こうでは様々な仮装をした子どもたちが騒いでいる。 無邪気な嬌声を上げて走り回り、毛布を片っ端からひっくり返しては「いないよー」「こっちもいなーい」と伝達。 『みんな本当にハロウィンを楽しみにしてるんです』 年に一度のハロウィン、子どもも大人も羽目を外して騒げる特別なお祭り。 もし今扉を開けたら? 物音をたて気付かれたら? ……想像したくもない。無垢な子どもたちが受けるショックの大きさを考え、ピジョンの顔がみるみる青褪めていく。 「スワローほんと、頼む……離れろ」 切なげな吐息に紛れた掠れ声を絞り出すも、スワローは兄の躊躇など一切忖度せず、ねちっこく耳裏をなめまくる。 「クローゼットでヤッてるとこ見られたらしゃれにならない」 「なら大人しくしてろ、かくれんぼは得意だろーが」 「この年になってまでしたくない、ぅあ」 「ハンターさんは敏感だな?服の上からでも尖ってんのわかるぜ」 カソックの上から乳首を揉み絞られ、はしたなく上擦る喘ぎを重ねた手のひらで封じ込める。 唾液を捏ねる淫猥な音に気分が高揚していく。だめだとわかっているのに、否だからこそ身体が火照っていく。 扉の向こうでは絶えず軽い足音が走り回る。 次の瞬間扉が開け放たれるかもしれない恐怖に慄き、息を殺して辱めに耐える。 極力声を落として会話してるがバレるのは時間の問題。衣擦れの音すら届いてしまいそうな焦燥で、ろくに身動きもできやしない。 振りほどきたい。突き飛ばしたい。それができたら苦労しない。 クローゼットの中は暗く狭く、大人ふたりが蹲りなんとか入る余裕こそあれ、姿勢を変える自由はない。終始ぴたりと密着してなければならず、ハンガーから吊られた外套が息苦しく重なり合うなか、スワローの息遣いや衣擦れが直に伝わってくる。 「は…………、」 スワローがぺちゃぺちゃ首筋をなめ、濡れた感触にぞくぞくと快感が走り抜ける。 気忙しく行き来していた靴音がふいにやむ。 「ねえ、クローゼットは?」 心臓がはねる。 「えーっ、こんなわかりやすいとこ隠れるわけねーじゃん!」 「そうだよ、バっカみたい」 バカ……ピジョンはひそかに傷付く。 「部屋でいちばん目立ってるもん、開けてくださいって言ってるようなもんじゃん」 「トウダイモトクラシって言うよ」 「みんなだってかくれんぼの時は真っ先に隠れるし」 「相手は大人だろ一応」 「そーそー、こんなバレバレなとこありえないって」 もう限界だ。 俺はここです許してくださいと飛び出していきたい。 「おっと」 「むぐー!?」 観音開きの扉に体当たりしかけるも、しめった手のひらに口を封じられる。 目だけ動かして振り返れば、スワローが如才なく人さし指を立てる。横顔には狡猾な笑み……明らかに事態がどう転がるか面白がってる。 片割れの体温と鼓動を背中に感じ、息苦しさに苛まれて現実逃避を図る。 子どもの頃も二人でクローゼットに隠れたことあったっけ…… 親子三人が旅して暮らしたトレーラーハウスは狭く、プライバシーは殆どない。 ひとりぽっちで泣きたい時、ピジョンはよくクローゼットで膝を抱えた。スワローもなにか気に入らないことがあるたびクローゼットに籠城したものだ。 二人が貼りまくったシールとクレヨンの落書きに彩られたクローゼットは、兄と弟だけの秘密基地だった。 当時の記憶が甦り郷愁誘うも、あの頃と今とでは歳月以上に大きな隔たりがある。 ピジョンもスワローも、もうおねだりが許される子どもではない。お菓子をもらえる時期はとっくにすぎた。 今のスワローが欲しがるのは別のものだ。 セクシーに節ばった手で口を塞がれたピジョンは、一途に祈るような気持ちで扉の裏側の木目を凝視する。 大部屋に散らばった子どもたちはああでもないこうでもないと、喧々諤々議論している。 「開けてみようよ、話はそれからだ」 「相手は吸血鬼だぜ?開けた途端ブワッとコウモリの群れが飛び出してちゅーちゅー血ィ吸われちまったら……」 「やなこと言わないで、ハリー嫌い」 何故子どもたちが大部屋で最も存在感があるといっても過言じゃないクローゼットをスルーしたのか、ピジョンは漠然とその心理を悟る。 ピジョンとスワローが咄嗟に隠れたクローゼットは、ぱっと見棺によく似ている。 吸血鬼の隠れ家にぴったりすぎて、本能的恐怖と直結する忌避の感情が働いたのだ。もちろん「大の大人がクローゼットに隠れるわけない」という先入観も前提にある。 それ位スワローの仮装はきまっていた。 本物の吸血鬼に比肩するほど強く美しく気高く、下僕を従える真祖の威風すら帯びていた。 同じ血を分けた兄弟なのに何故こうもちがうのか。コイツの何十分の一かのカリスマ性が俺にもあれば、賞金稼ぎとして出世できたのだろうか。 「ふ……、」 劣等感に苛まれた惨めさに俯けば、悪戯な指が襟を広げ、弱いうなじを突付く。よせと叫びたい。できない。辛うじて身もがいて抜け出そうと努めるも、スワローは兄をがっちり押さえこんで離さず、含み笑って脅す。 「暴れるとバレちまうぜ」 「んーっ!?」 うなじにくちびるが押し当てられる。 性急な愛撫が胸元をむさぼり、襟の分かれ目から忍んでくる。 熱く湿った手の動きに翻弄され、尻にあたる固い感触に、弟が勃起してる事実を悟って絶望する。 「今音しなかった?」 心臓が止まる。 「えーなんもしなかったぜ」 「~~~~~~~~~~~ッあ」 脈打つ肉棒が尻を削る。 「気のせいじゃない」 「絶対したよ、呻き声みたいな……ほらまた」 ペニスの上に座らされ、柔く敏感な会陰をぐりぐり揉みこまれる。 「ぅく………、」 前屈みに唇を噛んで耐え忍ぶ。スワローが体重をかけてのしかかり、太く固い剛直でピジョンの奥ゆかしい窄まりを擦りたてる。服を巻き込んだもどかしい刺激が連続、会陰を圧迫される快感に下腹がずくずく熱を持ち始める。 ダメだ。 イきそうだ。 女の子が勇を鼓して宣言する。 「開けるよ」 「だめーーーーーーっ!!」 「ッひ!?」 ピジョンが竦み上がり、スワローの手もとまる。 「び、びっくりした……どうしたの|诗涵《シーハン》」 诗涵……たしか蛇の子だ。黒いトンガリ帽子を目深にかぶり、魔女の格好をしていたっけ。教会に滞在時からピジョンによく懐いてくれた、心優しい少女だ。 「開けちゃだめ……ネズミさんがいる……」 「えーいないよー」 「いるもん、鳴いてたもん!夜にクローゼットの中からチューチューって……」 「ヘビのあいのこのくせに弱虫だなあ诗涵、ネズミなんてぱくりと丸呑みしちゃえばいいじゃん」 これはネズミのミュータント……ハリボテの剣をひっさげ、騎士の扮装をしたハリーだ。本人に悪気はなかったのだろうが、それを聞いた诗涵は黙りこくり、やがてぐすぐす洟を啜りはじめる。 「あたしネズミさんなんて食べないもん……」 「なんてこというのよハリー、小さい子にいじわるするなんてサイテー」 「お、おれはただネズミなんかへっちゃらだって……」 「共食いはシュミわるいわよ」 「しねーよ!!」 険悪な雰囲気だ。先程とは別の意味で飛び出していきたくてうずうずするピジョンを、スワローがすかさず押さえこむ。子どもたちの喧嘩を手をこまねいて見過ごせず、頼まれてもない仲裁を買ってでる兄の性格をよく熟知している。 「離せよスワロー、俺達が出てけば全部解決する」 「で、ガキどもに囲まれて袋叩き?」 「泣いてる子をほっとけない」 「お前はどんだけ……」 背後のスワローがあきれはてるが知るものか。 覚悟を決めて扉に手をかけたその時、斥候に出ていた男の子が帰ってきて大声で叫ぶ。 「殺人鬼がくるぞ!」 一瞬スワローと顔を見合わせるも、すぐ合点がいく。シスターの仮装だ。 「えっうそ、泥んこ爆弾で足止めしたのに」 「すっげー怒ってる、先生が怒りそうなFからはじまる汚いコトバ連呼してるよ!!」 「ハリーがポケットにカマキリの死骸いれるから!」 「お、俺のせいかよ!?」 「だめだここにいたら捕まる逃げなきゃ!」 ホッケーマスク及び麻袋を被った殺人鬼の来襲にパニック状態、子どもたちが我先にドアへ殺到、悲鳴と足音も慌ただしく逃げていく。 どれだけ恐ろしい目に遭わされているのか、廊下の奥で魂切る絶叫が炸裂。 「行った……か?」 「間一髪……だね」 同時に全身の力を抜く。シスターが空気を読んでくれて助かった。 小さく感謝の十字を切り、まなじりを吊り上げて振り返る。 「さっさとでるぞ、今のうちに先生のところへいくんだ……ってオイ」 「冗談、本番はこれからだろ」 「クローゼットの中でおっぱじめる気か……?」 節操ないヤツだとは思ってたけど、ここまでとは……。 子どもたちが退散して安堵したのも束の間、別の脅威が迫る。スワローがうなじに唇を付け、襟足との境目の皮膚をたどっていく。 「こーやってるとガキの頃思い出すな」 「……おなじこと思った」 「やっぱり?」 「子どもの頃、よくかくれんぼしたよな。覚えてるかハロウィン……お前ってば吸血鬼のかっこして、クローゼットに隠れて」 当時はこんな本格的な衣装じゃなかった。 母のお気に入りの黒いショールを首元に結んでマント代わりにし、棺に見立てたクローゼットにひきこもったスワローは、今か今かとピジョンが罠にかかるのを待ち構えていた。 しかしいざ扉を開けたのは母の馴染みで、クローゼットの中に待機していたスワローが「わっ!!」と大声あげて突っ込んできたのに仰天し、泡を吹いて失神した。 「お客は伸びちゃって母さんは介抱にてんやわんやだし、あの時はまいったよ」 「紛らわしいのがワリィ」 「吸血鬼選んだのってひょっとして……」 「あの時のリベンジじゃねーぞ、別に」 暗闇に沈んだ端正な顔が、ほんの少し赤らんでるのは気のせいだろうか。 ちびっこたちが全員行ってしまって静寂が行き渡ったのを確認後、降参のため息を吐き、どうしようもない愛しさとわずらわしさを持て余した表情でピジョンが呟く。 「……どうしてもすぐ欲しいか」 「いいの?」 スワローが瞬き、拍子抜けして問い返す。ピジョンは眉間の皺を摘まんでほぐし、不承不承、渋々といったポーズで続ける。 「大人しくしてたご褒美はやらなきゃいけない」 俺、ちょっとおかしいのかな。 眉間からおろした手を十字架に移し、ためらいがちに言葉を紡ぐ。 「部屋に子どもたちがいるのに無理矢理シてきたら見損なったし、今度こそ絶交した。子どもをダシに使うような最低なヤツはもう弟じゃないからね、心おきなく縁を切れる。でも、お前はそうしなかった。最低限の、最後の一線は守った」 「あんなジャリどもに兄貴のカワイイ喘ぎ声もったいなくて聞かせられるかよ」 ピジョンにも断固として譲れない一線がある。女子どもを脅しに使うようなまねは、彼がもっとも唾棄するところだ。 ピジョンは酷く潔癖で融通がきかない。 扉一枚隔て子どもが遊ぶ場所で、彼らが見聞きして一生のトラウマになるかもしれないリスクと引き換えたセックスに溺れるなど、良識うんぬん以前に良心が許さない。 「……俺たちだって、母さんがヤッてるの見るのやだったろ」 「…………」 母が通いの男に激しく抱かれてるあいだ、その喘ぎ声が聞こえないように弟の耳を塞ぎ続けて大人になった兄の言葉が、スワローの胸に沁み広がる。 「だから、さ。寸止めでガマンしたご褒美だ」 甘すぎる自覚はある。たがヌルい前戯だけでゆるゆる引き延ばしたのは、ほぐすのもそこそこにすぐ挿れたがるコイツにしては大した自制心だ。 偉い偉いと褒めるように両手をさしのべ、秀でた額に接吻をほどこす。 スワローは従容とそれを受け、ハロウィンの魔法のせいか、やけに積極的なピジョンを茶化す。 「……食っちまっていいの?ハンターさん」 「やさしくだぞ」 不安げに念を押し、弟の顔を手挟んで導く。スワローは生唾を呑み、扉を背にしたピジョンの襟をもどかしげに寛げる。 暴き立てた首筋、皮膚にくるまれて尖った喉仏を啄み、ドッグタグと絡んだロザリオの鎖が奏でる旋律に眉をひそめる。 「十字架とれよ」 「役になりきってるね」 「違くて」 神様にコイツを横取りされそうで、イライラする。 それとも本当に心まで吸血鬼になってしまったのか、ピジョンの胸元に輝く十字架を直視すると血が逆流するような激情を催す。 指一本でも触れたら爛れそうな、ありえない先入観が根強い。 ピジョンが胸にさげた十字架を見るたび兄をとらてしまったみたいで、限りなく近くに居ても拒絶されてるみたいな疎外感を抱くが、そんな胸の内はけっして明かさず強がってみせる。 「十字架がニガテでなにがおかしいよ?吸血鬼だぜ俺は」 作り物にしてはよくできた二本の牙を見せ付け、不敵にほくそ笑む。 「!あっ、」 かぷりと兄の首筋を甘噛みすれば、薄い皮膚の下で血管が脈打ち、ピジョンが気持ちよさそうに震える。 兄の首筋からはだけた鎖骨へキスしながら、もう片方の手を下半身へのばしズボンを下ろしにかかる。 「……くそ、どうなってやがる。とれねーぞ面倒くせえ、貞操帯か」 「乱暴するな、自分でやる」 腰に交差するガンベルトがひどく邪魔くさい。せっかちな弟に手を重ねて戒め、落ち着いて留め金を外し、鞣革のガンベルトを引き抜く。 待ってましたと舌なめずりしたスワローがカソックをたくしあげて直接手を入れ、既に先走りが滴るペニスを掴む。 「……へえ、カソックの下でびんびんに勃たせてたんだ。エッチなハンターさんだな、シチュに興奮した?コスプレ好きか」 「お前があちこちいじくるからじゃないか、よせって言ってるのに……」 服の上からくりかえししごきたてられた会陰はぷっくり膨れ、ずらされた下着からとびだしたペニスは、しとどにカウパーに塗れ蒸れた匂いを広げる。神父のカソックはたっぷり布を使っている、それは吸血鬼のファッションも同様だ。 首元から手首足首まで包まれて極端に露出が少なく、故に秘め隠した肌の艶めかしさや、暴き立てる背徳感がいやます。 「神父さんも俺の眷属だな。なんかそれっぽいこと言ってみろよ」 しめやかな衣擦れの音をたて、わざと兄に聞かせて羞恥を煽りながら行為に没頭する弟の注文に、ピジョンは困惑する。 「早く」 「!ぅわっ、ぁ、わかった、やる、やるから」 服の上から乳首を噛まれて催促され、涎が染み広がるカソックを見下ろして深呼吸。 役になりきって顔を引き締め、荒く喘がせた息の間から牽制する。 「処女の生血を好む邪悪な吸血鬼め、神のご加護を授かるヴァンパイアハンターがこの程度で怯むと思うか」 「いいぜその調子」 「必ずこの世から駆逐して……はァっ……平和をもたら、す……心臓に杭を打ち込んで灰に帰してやる……!」 だんだんノッてきた。役柄に酔いしれ栄華の終焉を告げるも吸血鬼は動じない。 「一点訂正。非処女もストライクゾーンだ」 後ろから抱きすくめる形で前に手を回し、ピジョンの膝を強引に割り開くと、赤く剥けたペニスをしごきだす。 「デカい口叩くじゃねーか。お前の大好きな神様とやらに、大股広げた今のかっこ見てもらうか」 「んん゛ッ、ふァっ、あァ――――――」 片手でピジョンの顎を掴み、無理矢理ねじって振り向かせる。胸元に居座る十字架がひどく目障りだ。兄の口をくちびるで封じ、舌を絡ませてたっぷり唾液を呑ませる。 「俺を倒すために持参したその杭で、テメエのケツ掘ってやろうか?」 「悪ふざけがすぎるぞ……」 ピジョンが怒る。スワローは兄の尻を胡坐の上にひょいとのせ、準備万端、完全に勃起したペニスで窄まりを突く。 「スワロー、ちょ」 「たんまはなし」 「挿れるのはやめてくれ……後始末が大変だ」 「あァん?」 「これからパーティーが控えてる、先生やシスターに挨拶回りしなきゃいけないし子どもたちとも遊ぶのに、そんなことされたら足腰立たない」 ピジョンがたまらなく嗜虐心をそそる熱っぽく潤んだ目で哀訴、不自由な姿勢でスワローに取り縋る。 ピジョンはなんとしてもハロウィンの催しを成功させたいと気を張っている。子どもたちのことを第一に考え、スワローの悪ふざけに耐えきったのがいい証拠だ。 「家に帰ったら好きにしていいから、今は見逃してくれ。みんなに迷惑かけたくないし、それに……」 子どもたちにいい思い出を作ってあげたいんだ。 普段のスワローなら兄の頼みなど鼻にもかけず一蹴したが、今回は珍しく気まぐれをおこした。互いの酔狂なコスチュームのせいかもしれないし、ハロウィンの魔法のなせるわざかもしれない。普段とは一風違った趣向を試したくなったのだ。 恩着せがましいため息に続き、剽げて肩を竦める。 「……しょうがねえ、突っこむのは勘弁してやる」 「ホント?」 「どっこい、途中でやめるたあ言ってねえ」 膝立ちになったピジョンの股ぐらから、ペニスにそってカウパーが滴りおちる。エロい眺めだ。 スワローは兄の腰を引き立て、扉の裏面に手を突いて尻を浮かせたピジョンは、おっかなびっくり弟の顔色をさぐる。 何が起こるか不安げな兄の股に、片手をそえたペニスをあてがい、会陰を擦るように勢いよく前後させる。 「!!!!あァッ、ァ―――――――――ッ」 「いいだしっぺはそっちだ、穴は使わねーでやる代わりに素股でイかせろ」 もちろん、ピジョンに素股の経験はない。 男性器に疑似的な挿入感を与え、摩擦によってクリトリスや小陰唇を刺激する行為だが、男同士で試みる知識は当然ながら備わってない。 「てめェは母さん譲りのド淫乱だから、ケツと内股擦られるだけでイケんだろ」 「スワローこれっ……なんかへん、だ、ぞくぞくする……はァ」 「粘膜弱すぎ」 こんなの生殺しだ。 赤黒く張ったペニスが、ピジョンの足の付け根にぬるぬると先走りを塗り付け、肛門付近から会陰にかけて滑走する。 挿入に至らないもどかしさが激しい擦過に伴う快感に散らされ、ケツの中がびくびく悦んで締まる。 「俺と兄貴が出したのでびちょびちょの会陰がヒクヒクしてら、やっらしい眺め。苦しいなら神様にお祈りしろよ、助けてくれっかもだぜ」 「ぅあっ、あァッ、んくゥッあ、やめ、あんまり動く、な、壊れる」 「兄貴が?クローゼットが?」 「両方、だ!」 どうかしちゃったのか俺は、会陰を擦り立てられるのが気持ちいいなんて……カソックの裾はしどけなくだけ、体毛が薄く生白い太腿が丸見えだ。 「ふあっ、あっ、あァあッ!」 前後する動きごとクローゼット全体がギシギシ軋み、その振動がまた刺激になる。 無意識にロザリオを握り締め、こみ上げる快感に耐えていれば、それに焚き付けられたスワローが嫉妬を燃やし、兄の窄まりを割り開く。 「兄貴の孔、ヴァギナみてーになってきたな。ぷっくり膨らんで口開けてよ」 何度となく弟を受け入れたきた蕾は、初体験の素股にすら貪欲に悦んで綻びを見せている。 挿れてもらえないのが切ない、寂しい、苦しい。物足りなさで涙が出る。 「お前がこんな身体にしたんだろ……」 ピジョンは片手に握り締めた十字架に唇をあて、惨めなまでに欲深な尻穴の疼きに耐える。 その姿はまるで快楽堕ちに抗って神に縋るかの如く、今にも吸血鬼の誘惑に屈しそうな弱い意志を瀬戸際で食い止める。 「んァっ、ゥああ゛っ、あ――――ッ!!」 「固くてぶっとい杭に跨ってズリこかれるのたまんねーだろ、ガマン汁でびちょびちょの股ぐらがビクビク波打ってやがる」 恐ろしく研ぎ澄まされた美貌で、口にするのは最低に下品なセリフ。 「無様なナリだなハンターさん、俺の心臓に杭打ち込んでくれんじゃねーのかよ」 爪先を窄め背筋を撓らせ、ピジョンが軽くイく。 挿入がないため絶頂に終わりがなく、股ぐらを強く擦られるごと尻穴がヒクヒク収縮。赤く腫れた会陰をペニスが圧迫、潤んだ粘膜を荒っぽく巻き返す。 「素股で何回メスイキしてんだよ、変態」 「スワローもうやめ……ゥあっ、ひゥぐ」 借り物のカソックの裾が、大量のカウパーと精液を吸ってしとどに濡れる。 「前伝ってこっちまでやらしーのがたれてきたぜ」 神父への申し訳なさに泣きたくなる。 こみ上げる罪悪感に嗚咽じみた喘ぎを小刻みにもらすも、スワローはせせら笑うのみ。 「どうしたよ、テメェの汁でカソック汚しちまったのがそんなにいやか」 「無駄口叩いてないではやくイけ、よ……ひあっ!」 「意外と具合イイじゃん、ケツと違う締め付けが癖になる。女のと比べると固ェけどそこがいい」 スワローはわざと挿入せず、お預けで切ながる肛門は掠めるだけにとどめ、カウパーで濡れ光る熟れきった会陰や足の付け根、しなやかな筋が浮き出た内腿を使ってペニスを慰める。 「自分だけよがってんじゃねー、ご主人様にご奉仕しろ」 ふざけて尻を叩く催促に、ピジョンは生まれたての子鹿のように這い蹲って括約筋を締める。 「は…………、」 初体験の素股を上手にこなせるはずもなく、膝這いの両腿にペニスを挟み、トンネルを抜けた亀頭を片手で不器用になでくりまわす。 もう片方の手は意固地に十字架を掴んで離さず、完全に堕落する一歩前で踏み留まり続ける。 「どうしたオラ、命乞いはおしまいか?吸血鬼に好き放題組み敷かれて恥ずかしくねえのかよ無能、神様の七光りでちゃちな飾り振り回すっきゃねえのか、ちったァ根性見せて愉しませろ」 「うあっ、ィあっ、あぐゥ」 「ケツ入れなくてもイけんじゃん、もう三回目?お前のここ、わかる?柔っこく膨らんで、俺のと擦れるとグチュグチュいー音鳴るんだ。擦れば擦るほどぬかるんで前立腺に響くだろ?」 初々しいカソックを乱し、胸元から下半身を大胆にはだけさせ、股ぐらに男根を咥え込んだその痴態は、吸血鬼の慰み者に成り下がり凌辱を受けてもまだ信仰を捨てられない青年神父さながら、痛々しい悲愴美を引き立てる。 「!ッ、でる」 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」 スワローがピジョンの頭を掴んで押さえこみ、一回り膨張したペニスが一際強く会陰を抉りこんで精液をぶちまける。 ふたりが果てるのは同時だった。 息を喘がせてピジョンの背中に凭れかかったスワローが、埃をはたいてマントを羽織り直す。 「どうだ、初素股のご感想は。イれなくてもイけるなんて便利なカラダになったじゃん」 弟の軽口を無視し、無言で身なりを整えるピジョン。カソックの皺を丁寧に伸ばし、裾の体液をハンカチで拭く。スワローはそんなピジョンの変化に気付かず、なれなれしく肩を叩く。 「まあ下手くそだったが回数こなしゃ上手くなるさ、女だってすぐマスターすんのはむずかしい……」 衝撃が走る。 何が起こったのか一瞬わからず当惑、のち硬直。ピジョンが発作的に腕を振り抜き、今しがた拾い上げた杭をスワローの顔の横すれすれに突き立てる。 「え゛」 弟の顔の横に杭を穿ち、反対の手に十字架を携えたピジョンは、几帳面にカソックを着込み直していた。今の彼は吸血鬼狩りに情熱を燃やす狂信者の風情、凄まじい復讐の一念で壁際にへたりこんだ弟を見下ろす。 「立場を忘れたのか?お前は吸血鬼、俺はハンター。狩る側と狩られる側だ」 「待てよピジョン」 「まさか自分だけ好き勝手やっておしまいじゃないよな?忘れたのか、今日は年に一度のハロウィン、大人だって羽目を外していい日だ。さんざんイタズラした挙句自分だけおいしいのもらってそれでおしまい?俺はまだなんにももらってない、一個もいい目見てないぞスワロー」 赤茶の目はとことん冷え込んでいる。神父から借りたカソックを汚され、ピジョンはキレた。 膝を崩して座り込んだ弟へにじりより、片手にさげたロザリオを、ひたりとスワローの胸に押し付ける。 「―お仕置きされたいんだろ?」 耳元でサディスティックに囁き、射精したばかりの股間に手をおく。 「はア?調子のってんじゃねーぞ手ェどけろ」 「吸血鬼を狩るのが俺の仕事さ」 「なりきってんじゃねーぞエセ神父、テメエ如きが下剋上なんざちゃんちゃら笑わせる、血ィ吸い尽くしてミイラにするぞ」 スワローがピジョンに欲情するのは年中行事だが、その逆はけっしてあってはならない。兄が弟に手を出すなんて間違っている。 己にそう誓約を課してきたが、生来の生真面目さから吸血鬼を狩り立てるハンターの役作りにのめりこみ、迫真の演技で揉み合った疲労と行為後の余韻がテンションをおかしくする。 穏やかな兄の豹変に引いたスワローの襟元に、一旦ロザリオから離れた手がのび、しゅるしゅるとタイをほどいていく。 華美なドレスシャツの胸元を寛げて、掻き開いた襟を持ち、チュッと吸い立てる。伏し目がちの淫蕩な表情は、品行方正なピジョンとは対極だ。 「どけよピジョン、フェラしてくれんのは歓迎だがおさまり付かなくなるのはそっちだろーが」 「かわいいなスワロー。手ほどきされるのが怖い?」 どうしたんだろう俺。 吸血鬼に噛まれて、理性が溶けてしまったんだろうか。 スワローがじれったげに顔を歪め兄を蹴りどかしにかかるも、ピジョンは素早くよけて、股間に這わせた手を妖しく蠢かす。 目の前に困惑に歪む弟の顔が浮かぶ。 プライドの高さを反映した弧を描く柳眉、凛々しい鼻梁と薄く整った唇。イエローゴールドの髪を後ろに撫で付けた風貌は大人っぽく、貴族の落胤じみた気品すら漂いだす。 アーモンドの形に切れ上がった瞳を間近でのぞきこみ、頭をもたげはじめた股間をねっとり揉んで、あやすように口ずさむ。 「悪戯?お菓子?どっちだ、言わなきゃわからないぞ」

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