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第7話

 オムレツはホワイトソースがかけられていてこれも優しい味だった。  和人は、「美味しかった?」と聞いて頷くと満足そうに笑った。  ドキッとする。  和人と会うのは2ヶ月ぶりだ。  攫われてホテルに連れて行かれて、首輪を着けられて以来だ。  電話は毎日かかってくる。お互いに仕事をしていて忙しいから時間は短いけど、声だけは聞いていた。毎日のように、「僕の運命」と言われる。だけど、表情を見ることはできなくて、どんな顔をしているのかはわからなかったから、こんな笑顔を向けられるとドキッとしてしまう。 「包帯。巻いてあげるよ」  食べ終わった食器を片付けた和人が包帯に手をかける。  昨日の晩にシャワーを浴びてその後に巻き直したけど、自分では巻きづらかった。  和人は座った僕の後ろに立って包帯を解く。 「ああ、本当だ。ひどいね」  首に全体重がかかった。首輪は細かったから余計に食い込んでしまった。 「ごめんね。俺がわがまま言ったから」  和人は小さな声で謝った。無理やりではあったけど、この首輪はΩの僕を守るためにつけられたものだ。 「あや、まらな、くて、いいです」  和人が謝ることじゃない。元はと言えば僕の不注意なのだから。好奇心旺盛な彰への配慮が足りなかったのだから。 「怖かっただろう。こんな傷になって」  和人は、「薬は?」と聞いたので、壁にある棚を指差した。軟膏を取り出して、丁寧に塗ってくれた。 「早く治るといいねぇ。痕が残らなければいいけど」  軟膏を塗り直してガーゼを当てて器用に包帯を巻いてくれた。  和人って器用だな。桐生は不器用だし、料理もできない。  2人で生活していたけど、どちらも料理は苦手で外食やテイクアウトが多かった。一緒に食べていたけど、仕事の話が主だった。プライベートとの境目なんてなかった。仕事のパートナーと恋人してのパートナー。僕たちには後者は無かったから。  手を繋いだことも、甘い口づけをしたことも、甘い言葉をかけられたこともなかった。  だから、和人の言葉には戸惑ってしまう。慣れないことばかりだから。 「もうお昼前だけど、今食べたばかりだからいいよね。俺は買い物に行ってくるよ」  和人は立ち上がった。  買い物? 首を傾げると和人は、「俺、夜中に飛び出して来たから何も持って来てないんだよ。さっきはすぐそこのスーパーに行っただけだから」と説明してくれた。

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