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第8話
「ひなたはお留守番ね」
何も持って来てなくて買い物とは、和人はここに居座るんだろうか。
仕事はどうするんだろう。
桐生と同じで桐生家の仕事を担っているはずだ。仕事で会うこともないから桐生とは別の仕事をしてるのだとは思うが、詳しくは知らない。それに、日本には長く帰って来ていないからこっちでないとできない仕事なのかもしれない。
「行ってくるね。ひなたはゆっくりしてて」
和人はバタバタと出掛けてしまった。
急に1人で留守番と言われると困ってしまう。
普段の休みは目覚ましを消して寝れるだけ寝て、起きた時に散歩がてら近くのカフェで遅めの朝食と昼食を済ませて、部屋の掃除と溜まった洗濯をする。夕飯は桐生の家に行ったり、簡単な惣菜をスーパーで買って来てビールを飲みながら食べて翌日の仕事の確認をして長い風呂に入って寝てしまうだけだ。
洗濯でもしようと部屋を見渡して綺麗に片付けられているのに気がついた。小さなベランダを見ると洗濯物が干されている。
和人っていつでも嫁に行けるな。
流しを見るとゴミひとつ、水滴ひとつ落ちていない。
仕方なくラグの上に座ってスマホを確認する。桐生から、首に包帯を巻いているのは目立つので包帯が取れるまでは自宅待機。とメールが入っていた。確かに対人の仕事ではこの包帯は目立って仕方がない。
まさかおもちゃで首を吊ったとは言えない。Ω用の首輪は細くてワイシャツでネクタイを締めれば見えることはなかったけど、包帯は目立ってしまう。
だけど、自宅待機ってなんだろう。
書類送ってくるってことだろうか。
机の上にタブレットを出したがそれらしい添付ファイルは届いていなかった。
和人はなかなか帰ってこない。何も持って来てないから買い物に行って来ると言っていたけど、それは食料の買い出しということじゃないだろう。何日かここにいるってことだろうか。桐生の家なら一軒家だからゲストルームある。夜だけでもそっちに泊まって貰えばなんとかなるだろう。
あれ、和人はどうやってこの部屋に入れたんだろうか。
合鍵は渡していない。
オートロックではないけど、鍵がなければ入れないはずだ。今だって、和人は出ていったけど鍵……閉めていった。
立ち上がってスペアキーを確認するが鍵はあった。自分のカバンの中の鍵もある。
閉め忘れたわけじゃない。
帰ったら聞いてみよう。
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