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第9話

 首を押さえて声を出してみるがやっぱり掠れて痛みが伴う。  昔歌手で子どもとキャッチボールをしていて喉にボールが当たって引退した事例があったことを思い出した。  別に自分は歌を歌うわけではないから声は気にしないけど、どうも違和感と痛みで声が出しづらい。  昨日の今日ですぐには良くならないだろうけど、早く良くならないかな。  薬を塗っているから化膿はしないだろうけど、この傷も早くなおってほしい。  仕事に埋没している毎日だから急に休みになると何をしていいか分からない。  一つだけのクッションを枕にして床に寝転んだ。スマホをいじりっていた。 『ビィぃィイイ』  大きなチャイムの音で驚いて起き上がった。  玄関のドアの窓から外を見ると葉山が彰と手を繋いで立っていた。  急いでドアを開ける。 「お休みのところごめんね。これ。差し入れ」  葉山はゼリー飲料やタッパーに入れられた惣菜を紙袋ごと差し出した。その顔は大分落ち込んでいる。 「気に、すること、ないです」  絞り出した声は掠れている。 「しゃわぁきっ。抱っこ」  足元の彰に言われて抱き上げる。 「声、まだ出ないね。ごめんなさい。彰が脚立を倒してしまったから。本当にごめんなさい」 「だい、じょ……ぶ」 「和人さんは? 来てるってアキが言ってたけど」  中へ入るように促したけど、彰がいたずらするかもしれないと、中には入らなかった。  待っててと手で合図して抱いていた彰をユキに渡して踵を返す。クローゼットから取り出した首にストールを巻いて包帯を隠すと、鍵とスマホを持って部屋を出た。アパートの向かいには小さな公園がある。  彰を抱き上げてそこに向かった。彰はアスレチックに走って向かって、僕たちは側で並んで立って見守ってる。 『気にしないで。すぐに良くなります』  スマホのメモ画面に打って葉山に見せると、「ありがとう」と笑顔を見せた。  首を吊られた姿に葉山も大分動揺したし、怖い思いをさせた。 『和人さんが来て、ご飯を作ってくれました。今は買い物に行っています』 「早朝にアキのところに鍵を取りに来たよ。車で飛ばして来たって」  飛行機では2時間かからないけど、車だと4、5時間かかる。そんなに驚いたのだろうか。桐生にはもう一つのスペアキーが渡してあったから、それを貰ったのかと納得した。

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