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第10話
「すごいね。駆けつけて来てくれるくらい沢木さんが心配だったんだね」
『スマホの電源を落としてたから連絡がつかなかった。早朝に起こしてすいません』
「いいよ。和人さん料理できるの?」
『朝起きたら朝食ができてました』
簡単にパンを焼いただけじゃない。痛めた喉に配慮して作られたものだった。
「へぇ〜。和人さんこっちにしばらくいるのかな?」
『何も聞いてない』
「アキには『俺が付いててやるから安心して仕事を休ませろ』って言ってたから、しばらくいるのかもね」
そんなこと一言も言ってなかった。まるで桐生から休みをくれたように言っていたのに。
ため息をこぼす。
「アキも仕事は忙しくないから、リモートや書類整理を自宅からしてくれたらいいって言ってました」
頷いた。仕事はまだ届いていない。リモートや書類整理なら自宅でできる。
「ああっ、彰危ないよ」
アスレチックの上まで登った彰が片手を離して手を振る。最近は運動量も増えている。目は離せないから大変そうではあるけど、葉山は楽しそうにしている。桐生と葉山が幸せでいてくれることは何よりの励みだ。
彰をなんとかアスレチックから下ろす。走り回る彰を追いかけて鬼ごっこが始まって、転ぶと芝生の上を転がり回って大声で笑っている。時よりこちらを気にする様子はあるが、彰はどんどん新しいことを見つけて楽しんでいる。
葉山も彰を追いかけながら楽しそうに遊んでいる。僕は近くのベンチに座ってそれを眺めていた。
「Are you Ω?」
不意に声をかけられて顔を上げる。見たこともない男性だ。でっぷりとした体格と口には髭を蓄えている。
「It smell good.Why don’t you enjoy together ?」
「no.Get out there」
掠れた声でなんとか返事をするけど、男は聞き取れない様子だ。咳き込むが男は無視して、「Come over here」と腕を掴んできた。
「no! Don’t go!」
掴んでくる腕を振り払おうとするが、男はニヤニヤ笑って僕の腕を引いて無理やり立たせた。
「ゲホッ、けほっ、やめろっ。離せっ」
大声で抵抗しても男は英語で煽り立てるばかりだ。こんな日中の公園で誘ってくる男に出会したのは初めてだ。
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