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第12話
「そうだね。俺が連れて行くよ。友紀君と彰は送って行くからひなたの家に行こう」
和人に促されて立ち上がった。和人は緩んだストールを巻き直してくれた。
人前では『ひなた』と呼ばない約束をしているのに、和人も動揺しているんだろうと注意はしなかった。
そんなに心配しなくても大丈夫だと伝えても、和人は聞いてくれなかくて、僕のアパートの前に停められた車に葉山と彰、僕を乗せてすぐに病院に向かった。家に送ると言ったけど、葉山は心配だからと病院までついて来てくれた。
病院では念のためにと内視鏡検査までしたが、外傷性の裂傷と言われて止血剤を塗られただけで済んだ。
「もう、どうして俺が離れた時にこんなことになるのかなぁ」
和人は言いながら、「友紀君も心配かけたね。ありがとう」と言ってお礼を言った。
僕が喋れないから代わりに言ってくれてるけど、なんだか気恥ずかしい。
「留守番してるように言ったのに」
「そ、それは僕が来たから。彰が色々触っちゃうから外に出てくれたんだ」
葉山が説明すると、「そっか、子どもって触りたがるもんね」と抱っこされている彰の頭を撫でた。
「ひなたはマスクして」
病院の診察を待っている間に和人は院内の売店で購入してきたマスクを僕に渡した。
「喋らないのと、保湿、抗菌。しっかりして」
過保護だとは思ったけど、病院にまでくる羽目になったから仕方なく渡されたマスクをつけた。
病院から出ると外は暗くなっていた。
「ああ、夕飯どうしようか? うちで食べますか?」
葉山が家に誘う。
「そうだね。アキも心配してるだろうし俺が作ってもいいかな?」
「和人さんが作ってくれるんですか?」
「食材を車に乗せたままなんだ。傷んでなければいいんだけど」
再び車に乗り込むと桐生の家に向かった。葉山は車の中から桐生に電話をかけて詳細を説明していた。
『みんなの前で名前を呼ばないでください』
スマホに表示させた文章を和人に見せると、「ああ、ごめん。気がつかなかった」と悪びれもなく言った。きっと途中で気がついていたはずだ。ため息を吐いて、『気をつけて』と打ってみせた。和人は、「分かった」と返事をした。
桐生の家に着くと桐生が不機嫌な顔をして待っていた。
「ごめんね。僕がそばにいればよかったんだけど」
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