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第13話
葉山が謝ってはくれるが、『すいません。変なαに絡まれてしまいました』と画面をみせた。
「番のいないΩが1人でベンチに座っていたら危険だ。まして、首輪もしていないんだから」
桐生は言いながら、「災難だったな」と僕の頭を撫でた。
「アキ、触るなよ」
和人が不機嫌に言って、「これを冷蔵庫に入れて」と車から下ろした買い物袋を渡した。
「何を買ったんだ?」
「食材だけど、そのまま病院に行ったから傷んでるかもしれない」
袋の中身を確認しながらキッチンに向かっていく。
まだ暑い季節ではないから、車中の温度は上がっていなかったようで食材は無事だった。
「和人さんって、料理できるんですね」
葉山がキッチンで言われたなべや調味料を出しながらいうと、「和人兄はレストランを経営してるから」と桐生が説明した。
「え? コックさんですか?」
葉山が驚くと、「いや、コックではないよ。経営してるだけで、店で働いてるわけじゃないから」と説明した。
「オーナーとして数店舗経営してるんだ。俺のホテルのラウンジもいくつか手がけてる」
桐生がいうと、「経営よりもプロデューサーって感じかな」と付け足した。
「料理は好きで勉強したんだ。美味しいものが好きだからね」
食材をカウンターに出すと手際よく料理を始める。
「ひな……沢木君はゆっくりしてていいよ」
言われて頷くとリビングのソファーに座った。
「しゃぁあきっ」
すぐに彰が駆け寄ってきて抱っこをせがんだ。抱き上げると手に持っていた本を渡される。これは、読んでくれってことだろうけど、どうしよう。彰はその大きな瞳で見上げている。
桐生が、「ああ、彰。沢木は今ダメなんだよ。ほら、俺が読んでやる」と言って自分の膝に彰を抱き直した。
「やぁ、やぁ、しゃわぁきがいいっ」
彰がぐずる。
葉山がやってきて、「彰。これにしたら?」と車のおもちゃを渡した。彰は顔色を変えると車を受け取った。リビングの端には彰のおもちゃコーナーがあって、そこから彰は車を何台か持ってきた。
「アキの読み聞かせ……機械みたいなんだよ」
小声で耳打ちされた。
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