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第14話

 桐生の読み聞かせは聞いたことはないが、職場の会議で書類を読む時のように読むのだろうと想像ができた。  キッチンと続きなっているリビングに香ばしい匂いと共に油が焼ける音が響いて食欲をそそる。 「大丈夫だったか?」  桐生が小声で確認した。  頷いた。  アメリカに住んではいたが、いつもは桐生が側にいたし、番になってからはΩのフェロモンを出すことは無くなっていたから、危機感が薄れていたのかもしれない。だけど、昼間の公園で誘われるとは思っても見なかった。  独り身の怖さを痛感してしまった。 「和人兄はしばらくこっちにいるからその間は大丈夫だろうけど、気をつけろよ」  仕事に復帰すれば桐生がそばにいるし、1人でいることは少ないから安心だ。 「もうすぐ発情期だろう。余計に気をつけろ」  発情期の間は仕事は休みが取れる。その休暇願いを先日出したばっかりだったから、桐生も知っている。 『抑制剤は飲んでる』  スマホを見せるが、「運命の番が側にいたらそんなの効かないだろう」と和人をチラッと見た。  抑制剤を飲んでいても、運命の番が側にいれば気を抜けばヒートを起こしてしまう。今は抑制剤を飲んでいるし、『側にいる』という緊張感でなんとか保っている。きっと、和人も抑制剤を飲んでいる。 『夜はこちらに和人さんを泊めてください』 「それは和人兄が納得しないだろ」 『2人きりとか無理です』 「無理って……お前の番だろ」 『番ではないです。とにかく無理』  首を横に振る。 「和人兄だって心配してきてくれたんだ。そう、無下にするな」  そんなことを言われても気を張っていて、緊張して疲れるのだ。  自分でも抑えきれない感情があることは分かっている。  これまでは電話だっからなんともなかったけど、その存在が目の前にあって、近くに体温がある。  一夜だけとはいえ、抱かれた経験だってある。発情期も近い。  発情期になったら来るとは言っていたし、全部俺のものだとも言われたけど、それが現実となるとどうにも落ち着かない。 「この傷が直るまでは和人兄だって無理はしないだろ」

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