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第15話
首をさすってため息をついた。
和人はテーブルの上にところ狭しと料理を並べた。
「時間がなかったから簡単なものばかりだけど」とは言い添えた。
「沢木君はこれね」
手間だったろうけど、僕だけ飲み込みやすい料理を出してくれた。
「この辺りは日本食材の店は少ないね。置いてあっても少ないし、高い」
「この辺りには日本人はあまり住んでいないからな。大型ショッピングモールにでも行けば専門店がある」
桐生は日本食が好きだ。葉山も作るものは日本食だから休みの日にはモールで大量に購入するか、ネットで取り寄せている。
「ストックがあるから持って行きますか?」
葉山がいうと、「ありがとう。後で見せてね」と和人は上機嫌に答えた。
『うちの冷蔵庫は入らないですよ』と書き込んだスマホを見せる。
「じゃあ、いる時には取りに来るよ」
葉山はいつでもどうぞと返事をした。
いったいいつまでいるつもりだろうかと心配になった。仕事もあるだろうし、着替えや生活用品だって必要になるはずだ。この辺りは住宅街だからホテルもない。
「和人兄、仕事はどうするんだ?」
「仕事は片付けてきたし、大丈夫。心配ない」
プロデューサーならフリーで仕事ができる。一つのところに収まって仕事はしていないようだ。
「親父は?」
「うーん。どうかな。新店舗の件が纏まったら話をつける」
なんの話かは気にはなるが、桐生家の事情のようなので気にしないことにする。
桐生と和人は2人で話し込んでしまった。葉山は彰にご飯を食べさせている。
僕が作ってもらった夕飯は流動食のようでなんだか噛みごたえがなくて味気ない。しかも、喉に染みないようにか味も薄い。テーブルに並んだ食事はとても美味しそうだ。
「ああ、ひ、沢木君。それは飲み込めないと思う」
手を伸ばすと和人に制されてしまった。鬱々とした気持ちで落ち着かない。食事もほとんどを残してしまった。
デザートは和人が温かいプティングとやらを作ってくれたけど、甘いものを食べる気分じゃなかった。
「沢木君、そろそろ帰る?」
和人に聞かれて一緒に帰るんじゃないのかと思ってしまって、『ここに泊まって。うちには布団がない』とスマホを見せた。うちにはソファーもないし、来客用の布団もない。床で寝れるほど温かい季節でもない。
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