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第16話
「大丈夫。布団を借りたから」
「ああ、来客用の布団を出してやるから持っていけ。干してはないから明日にでも干したら使える」
アメリカはほとんどベッドだ。日本から来た来客用に布団を持ってきてるとは言っていたが、まさか使うことになるとは思ってもみなかった。
「ベッドじゃないと寝れないとかいうなよ?」
「それは大丈夫。今日も一緒に寝たけど、大丈夫だったから」
慌てて和人を見ても、「ね」とこっちに笑って見せた。
「か、って、に……」
声を出してしまって咳をする。
「ああ、ほら、無理しなくていいって」
和人は甲斐甲斐しく世話をしてくれるが、どうにも外堀を埋められて要る気分だ。
まだ認めてない。まだ認めてないけど、桐生や葉山はお前の番と言うくらいだから、僕のパートナーとしてみているのだろう。長距離を夜間に車で駆けつけてくれるくらいだから、それだけの想いがあるってことは分かる。
俺のものになれって言われてもいるし、愛したいと、愛されたいと望めとも言われた。
ただ、認めるのに躊躇してるだけだ。
桐生にずっと片想いしていたことは周りも知っている。番っていたことも。
だからこんなすぐに次のパートナーにって思われるのも恥ずかしい。
和人は桐生と布団を出しに行ったり、葉山は食事の片付けや彰の世話を焼いている。
しばらくすると、「沢木君帰るよぉー」と和人に呼ばれて、2人に頭を下げて和人の車で自宅に戻った。
「ひなた、先にシャワーしてきて。俺は車から荷物下ろすから」
和人の車はシボレータホだ。荷台が広くて買い物してきた物や借りた布団が積まれていた。
「そんなにないから大丈夫だよ。先に入っておいで。出たら包帯巻いてあげるよ」
頷くと先にアパートに入った。アパートは6階まであるが、僕の部屋は2階だ。階段を上がればすぐなので、エレベータはあまり使わない。車は近くの駐車場を借りている。目の前にもコインパーキングがある。明日にでも自分の車を桐生の家に置かせてもらって、和人の車を駐車場に入れてもらおう。
部屋に入って空気の入れ替えの為に窓を開ける。干したままになっていた洗濯物を取り込んでいると和人が両手に荷物を持って入ってきた。
「ただいまーって、なんだかテレくさいね。ハグしてくれてもいいよ」
笑っている和人にジェスチャーで遠慮する仕草をすると、「ひなたが帰って来る時は俺がする」と言い返された。
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