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第18話
明日は一度会社に出向いて、自宅から仕事をすることを伝えるのと引き継ぎをする。第二秘書は普段は総務で働いて、僕が休みの時や忙しい時だけ秘書と兼務して仕事をしてくれるほど優秀だ。
電話で伝えられたら早いのに、声を出せないというのはなんとももどかしい。リアルタイムでやり取りしていても、うまく伝わらなくて、『明日伝える』と打って早々に切り上げた。
タブレットを使って、明日の仕事の予定と駐車場について説明した。
「明日は俺も仕事に行ってくる。下見を兼ねて散策してくるから帰りはアキの家に迎えに行くよ」
仕事はどこでするんですか?
この辺りを散策するってことですか? 目の前の公園は木々が多くて気持ちがいいですよ。
頷いてキッチンに向かうと処方された薬と一緒に常用している抑制剤を飲んだ。先に寝ることを伝えて寝室に向かう。
桐生のところから借りてきた布団が畳んだまま床に置かれていた。
床には僕が寝るべきかとも思ったけど、借りてきた布団は来客用の上等な布団だ。和人に使ってもらった方がいいだろうと、ベッドに潜り込んだ。昨日は一緒に寝た。
和人が明け方に来たのは分かったけど、朝、起きた時間は分からなかった。
枕に頭を預ける。昨日からのバタバタで今日もいろんなことが起きてすっかり疲れてしまって、すぐに寝入ってしまった。
布団とは違う温もりに目が覚めた。
すっぽりと背中から抱き込まれていて身動きが取れない。
ベッドの下には客用の布団があったはずだ。枕はひとつしかなくて、一緒に使っている。和人の寝息が襟足にかかっているが包帯があって、そこに熱く感じた。
声を出せないから起こす事もできない。
そんなにくっついて暑く無いですか?
腕は痛く無いですか?
包み込まれる甘い香り。
僕からも匂いはしますか?
僕の香りで誘われたりしないですか?
興奮させられるフェロモンとは違う、優しい甘い香りだ。
動けないから、まだ眠たいから、疲れているから……。理由を探してしまう。
前に回された両腕が強く抱きしめている。
僕が甘えてもいいですか?
その両手を抱き締めるように手を回して目を閉じた。
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