19 / 55
第19話
「……ひなた。ひなた。そろそろ起きた方がいいよ」
朝声をかけられて目を開けた。支度の整った和人が見下ろして、驚いて時間を確認する。目覚ましはセットしたはずなのに気がつかなった。
「もうすぐ7時になるよ。朝食食べよう」
和人は言いながら寝室を出ていく。
何時に起きたんですか?
一緒に起こしてくれたらよかったのに。
足元の布団は昨日のまま畳まれたままだ。だから、一緒に寝ていたのは夢じゃない。
急いで着替えて身支度を整える。スーツはいいけど、ワイシャツは包帯が当たってネクタイを締められない。どうしようかと考えていると、和人が、「これがいいよ」と後ろから手を回してブルーに紺色のラインが入ったスカーフを巻いてくれた。
背中から抱きしめられているようでドキッとして、耳に息がかかるのがくすぐったかった。
うっすらと香る甘い香り。僕を誘っていますか?
テーブルの上にはトロトロのオムレツとポタージュスープが置かれていて、昨日とは違うリゾットが用意されていた。
タブレットを手に取ると、『朝食ありがとうございます』と打って見せて、『起こして頂いてありがとうございます』と打った。
「どういたしまして」
『布団使わなかったんですか?』
どうして僕のベッドに入ってきたんですか?
「ああ、まだ干してないから。今日は天気がどうかなぁ」
和人は言いながら窓の外を見上げる。
『一緒に寝ない』
タブレットを見せると、「冷たいなぁ」と呟いた。
どうせ今夜も入ってくるのでしょう?
一緒に朝食を食べて、支度をすると「はい。これランチ。俺は後から出るよ。行ってらっしゃい」と袋を渡されて玄関まで見送られてしまった。
「ひなた」
呼ばれて振り返る。一瞬抱き締めて離すと同時に頬にキスをされた。驚いて後ずさると、「新婚さんみたいだよね。やってみたかったんだぁ」とはしゃいだ声をあげる。
「な……」
「ああ、声は出さなくていいよ。行ってらっしゃい」
和人は笑って手を振った。
玄関を閉めるとそのドアに背中をつけて、両手で頭を抱える。
どうにも慣れない。不意なことが多すぎる。
冷静に落ち着いていたいのに掻き乱されてしまう。
ともだちにシェアしよう!