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第19話

「……ひなた。ひなた。そろそろ起きた方がいいよ」  朝声をかけられて目を開けた。支度の整った和人が見下ろして、驚いて時間を確認する。目覚ましはセットしたはずなのに気がつかなった。 「もうすぐ7時になるよ。朝食食べよう」  和人は言いながら寝室を出ていく。  何時に起きたんですか?  一緒に起こしてくれたらよかったのに。 足元の布団は昨日のまま畳まれたままだ。だから、一緒に寝ていたのは夢じゃない。  急いで着替えて身支度を整える。スーツはいいけど、ワイシャツは包帯が当たってネクタイを締められない。どうしようかと考えていると、和人が、「これがいいよ」と後ろから手を回してブルーに紺色のラインが入ったスカーフを巻いてくれた。 背中から抱きしめられているようでドキッとして、耳に息がかかるのがくすぐったかった。 うっすらと香る甘い香り。僕を誘っていますか? テーブルの上にはトロトロのオムレツとポタージュスープが置かれていて、昨日とは違うリゾットが用意されていた。 タブレットを手に取ると、『朝食ありがとうございます』と打って見せて、『起こして頂いてありがとうございます』と打った。 「どういたしまして」 『布団使わなかったんですか?』 どうして僕のベッドに入ってきたんですか? 「ああ、まだ干してないから。今日は天気がどうかなぁ」  和人は言いながら窓の外を見上げる。 『一緒に寝ない』  タブレットを見せると、「冷たいなぁ」と呟いた。  どうせ今夜も入ってくるのでしょう?  一緒に朝食を食べて、支度をすると「はい。これランチ。俺は後から出るよ。行ってらっしゃい」と袋を渡されて玄関まで見送られてしまった。 「ひなた」  呼ばれて振り返る。一瞬抱き締めて離すと同時に頬にキスをされた。驚いて後ずさると、「新婚さんみたいだよね。やってみたかったんだぁ」とはしゃいだ声をあげる。 「な……」 「ああ、声は出さなくていいよ。行ってらっしゃい」  和人は笑って手を振った。  玄関を閉めるとそのドアに背中をつけて、両手で頭を抱える。  どうにも慣れない。不意なことが多すぎる。  冷静に落ち着いていたいのに掻き乱されてしまう。

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