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第20話
なんで、なんで可愛いと思ってしまった。
僕より背も高くて、年上なのに。
桐生の兄なのに。
こぼしたため息は熱を持っていて、慌てて頬を両手で叩くと桐生を迎えに行った。
仕事に行くと、桐生が僕に起こった出来事を説明してくれた。
僕は今朝和人に結んでもらったストールを少しめくって見せた。
「うわぁ、大変でしたね」
第二秘書は声をあげて驚いて、「任せてくださいっ」と張り切って仕事を請け負ってくれた。
引き継ぎと書類の整理をして、電話の応対ができないもどかしさと、タブレットを使った会話にもどかしさにストレスを感じてしまう。いつもは総務課で仕事をしているが、包帯やいつもと違うストール姿に桐生が社長室に席を用意してくれた。会議や面会などはいつもなら一緒だけど、説明もできないし、声も出せないので第二秘書が代わりに行ってくれた。
声が出せないって面倒だ。
ランチはうちにはなかったランチジャーにほんのり温かい柔らかく煮込んだ野菜が沢山入ったシチューだった。本当にあの人は何時に起きているだんろう。僕より後に寝ていたはずだけど。
就業時間になっても桐生は忙しくしていた。僕は自宅でできる仕事をまとめていたが、『買い物に行ってきます』とオフィスを出た。和人にお土産を買おう。
せっかく来てくれて世話もしてくれてるから、何かお礼をしたい。
桐生は甘いものは食べないけど、和人は昨日は暖かいプティングを食べていたから大丈夫なのだろう。それともお酒がいいか。近くの専門店に入ったが、声が出せないことを思い出して専属のソムリエに意志を伝えられなくて店を出た。
指差して買えるものがいいか。
近くのパティスリーに入って季節のフルーツを使ったケーキを数種類購入した。ついでに桐生と葉山、彰にも購入して店をでた。
オフィスに戻ると桐生が帰り支度をしていてケーキの箱を差し出すと、「彰が喜ぶな」と言って受け取った。
車は渋滞に巻き込まれることなく桐生の家まで着いた。先に着いていた和人は彰と一緒に遊んでいて、すっかり懐かれた様子だった。
子ども好きなんですね?
「きりゅぅパパ、かえりー」
彰が走ってくるのを桐生が抱き止める。
和人が目を細めて見守っているのが見えて、胸が痛んだ。
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