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第22話
それって、わざと?
僕を煽ってる?
「……あり……」
「声出さないよ。わかってるから」
唇に和人の指が一瞬触れて、さっと体制を戻した。ハンドルに手を戻して車を発進させた。
ああ、絶対わざとですよね?
俯いて膝に置いた手を見つめた。
わかってるってなに?
「スーパーで買い物するけど、食べたいものってあるかな? 好き嫌いはないんだよね?」
頷く。
好き嫌いがないって言ったかな?
僕が言ったこと覚えてるってことかな。
「俺はねぇ。なんでも好きなんだよなぁ。美味しいものが好きだからさ。こっちでしか食べられない料理とか、食材とか、メニューとかあって忙しいんだよね。ひなたのおすすめのお店も知りたいし、好きな食べ物とか。流行ってるお菓子とか、行列ができるお店とか。早く良くなって色々食べに行きたいんだ」
僕もあなたのことをもっと知りたいです。
声にならない言葉が浮かんでは声にできずに飲み込まれていく。
言葉にできない苦しさが募っていく。
怪我をして4日目にもう一度病院に行った。和人は1人で大丈夫だというのに、一緒に病院に行って、診察室の中でもドクターを質問攻めにした。経過は順調だけど声はまだ掠れていて、無理に声を出すと咳き込んでしまって喉を痛めてしまうからもうしばらく我慢することになった。
長いな。
首の傷は瘡蓋ができて包帯は取ってもいいことになったけど、痣が赤黒く変色して余計に目立つので家の外ではストールを巻くことにした。僕は自宅から書類作成やメールで仕事の報告を受けて仕事をしている。和人は仕事に出掛けて行く。
昼食は朝に和人が作り置きをしてくれていて、過保護だと言っても毎日用意してくれる。
だから、家から一歩も外に出る必要はない。先日のことがあって和人は余計に過保護な気がする。
ラグの上に横になると寝室のドアが開いていて、ベッドの上に和人が脱いで置いて行った寝巻きがあった。ずるずると床を這ってその寝巻きを引き寄せた。今日は天気が悪くて洗濯はしていない。
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