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第23話

 引き寄せたそれはうっすらと和人の甘い残り香がした。 『ゾク』と何かが背中を這った。  その寝巻きを抱きしめて身体を丸くする。  ああ、やばい。  予定通りなら発情期までまだ2週間はある。喉はまだ戻っていないし、声も出せない。  発情期が来たら和人はどうするだろうか。  発情期には来ると言ってたから、抱く気でいるってことだろうけど……。  この喉が戻らないと……。  いや、抱かれたいとかじゃなくて、僕は和人のパートナーって認めたわけじゃなくて……。  喉が早く治ればなんて、期待してしまった。  恥ずかしくて胸に抱き締めた和人のパジャマに顔を埋める。  抑制剤は飲んでいる。  だけど、運命の番がそばに居て無意味なことは前にも知っている。  自分の息が熱いのを感じる。抱き締めた身体が熱く反応しているのも分かる。 『愛されたいと望んでくれないか?』と和人は言った。  こんなに甲斐甲斐しく世話をされて、惹かれないはずがない。  とっくの昔に知っている。自分がもう誰を望んでいるかなんて。  この間は発情期じゃなかった。今度会う時は発情期だって分かっていた。  毎晩電話をして、運命と言われた。  今だって、毎晩僕が寝てからベッドに入ってきて抱き締める。  その腕の中の温もりが、香が僕を安心させるものだって、和人はきっと知っている。  僕を、ドロドロに甘やかして、束縛するって言ってたけど、もう、そうじゃないか。  和人がいなければご飯だってろくに食べられない。 「ひなた、どうした?」  不意に声がして顔を上げた。 『ドクンっ』 「あ……」  溢れた香が一気に広がる。恥ずかしさに赤くなって、持っていたパジャマを慌ててベッドに投げて起き上がった。  鍵が開けば音がするはずなのに、その音にも気がつかなかった。 「こ、れ、は……」  出した声はひどく掠れている。野太い声に自分でも驚く。 「ああ、声出したらダメだって」  和人は言いながら、「何してたのかなぁ?」なんて意地悪く笑う。  首を横に振る。  何もしてない。ただ、床に丸くなっていただけだ。

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