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第25話
まだ出て行ってない。
慌てて靴を履いて玄関を開けた。
「ひな……」
開けたすぐ目の前に和人が壁に背をつけて立っていて、そのまま抱きついた。
しがみつくと、「どうしたの?」と優しい口調で言った。
さっきの意地悪な声音と違う。
行かないで。
「換気した?」
和人の首に両手を回してしがみついたまま頷いた。
「ごめ……」
「謝らなくていいよ」
子どもにするように僕の頭を撫でる。
1人になる心細さが優ってしまう。
和人との生活がΩの性を優ってしまう。
和人が気を遣って、我慢して、僕を甘やかしてくれるから成り立っている。
僕が受け入れるのを和人が待っているのは分かっているのに、簡単に求めてしまう。
甘やかすから。
「中に入っていい?」
頷いて手を離した。ここはアパートの廊下だ。近隣の目もある。パッと離れて急いで中に入った。
「用事が早く片付いたから帰ってきたんだよ。ひなたが1人だし」
追いかけて中に入った和人は手に持っていた鞄を床に置いた。
「ちゃんと留守番してるか不安だよ」
この間のことだってある。アパートの中にいれば鍵もあるから安心だ。1人で買い物に行くこともあるけど、この間のことがあるから、買い物は和人がいる時に一緒に行っている。Ωの危うさを痛感したばかりだから、不安が募る。
大丈夫だよ。
ちゃんと家の中にいたよ。
「今度の発情期、どうせ休みを取ってるなら、俺の家においでよ」
発情期の休みは1週間ある。2週間後の予定だけど、この喉が治らないと咳が出て傷をつけるかもしれない。病院はまだ通っているし、桐生に聞いてからじゃないと判断はできない。
和人だって仕事があるから僕をこのまま連れて行って向こうで仕事をしたいってことだろうか。
それなら僕を置いて行ったらいい。
僕だけでも発情期は乗り越えられる。
「ひなたを連れて帰りたい」
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