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第26話
和人は頭を撫でるとキッチンに向かっていった。
連れて帰りたい。
僕も和人の家を知りたい。
どんなところに住んでいるのか。これだけ料理ができたらきっとキッチンも綺麗だろうし、部屋も綺麗だろう。
和人は体格もいいからここのようにユニットバスじゃないだろうな。
家なのかアパートなのか、マンションなのかそれさえも知らない。
和人はキッチンで作業を始めた。何をしているのか見ていると、「夕飯は食べに行こうよ。刺激物はまだダメだけど柔らかいものは大丈夫だよね?」と言われてうなずた。
どこに行くんですか?
「今、お湯が沸くから待ってね」
和人はいつの間にか買ってきて置き場所を作った紅茶コーナーから茶葉を選んでうちにはなかったはずのガラスの急須で紅茶を入れた。
フルーティーな香りが一気に部屋に広がる。
いい香りですね。
サイズも色もバラバラなカップに紅茶を入れて、蜂蜜を垂らして混ぜると、「どうぞ」と僕に差し出した。
会釈をして受け取る。
「熱いから、少し冷めてからがいいよ」
和人が慌てた。
そろそろ熱いものも大丈夫です。
頷いてフーッと息を吹きかけて口に運んだ。
紅茶の香りと蜂蜜の香りが口の中に広がって、気持ちが落ち着く。
和人は紅茶の銘柄にも詳しいようだ。
コーヒーよりも紅茶が好きですか?
自分もカップを持ってキッチンで紅茶に口をつけている。
淡い黄色のオーバーサイズのジャケットと黒いスキニージーンズ。ラフな格好が多い。桐生のきっちりとしたスーツ姿とは全く違う。兄弟でも全く違う。顔つきや雰囲気は似ているけど、話し方や声は全く違う。
似ているところを探すよりも違いを見つけることの方が多くなった。
ローテーブルにはさっきまで取り掛かっていた仕事の資料が広がっていて、開いたままのタブレットも画面が表示されたままになっている。紅茶の入ったカップをテーブルに置いて書類をファイルにまとめてタブレットでメールをチェックして閉じた。
桐生と第二秘書からは毎日仕事の事務連絡がくる。来る時間はまちまちで夜中に届くこともあるから、急ぎの場合はスマホに一報ある。今日は届いていないから大きなトラブルはなかったのだろう。
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