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第30話

『何がおかしいんだ』 「いや、聞き慣れないし、どうもお前じゃないみたいだ」 『仕方がないだろう。僕だっていい加減治ってくれないとストレスでどうにかなりそうだ』 「別におしゃべりでもなかった訳だから、そんなに不自由でもないだろう?」  首を横に振る。 『意志の疎通が難しい。和人は一方的にしゃべるし、返事を待たない』 「ああ、兄はそうだな」  桐生は頷いた。 『咄嗟に返事ができないのはストレスだ』  返事も待ってくれないし、僕がいいたいことはわかると言って聞いてくれない。  しゃべることもさせてくれない。 「昔から台風のようだからな」  桐生は手で周りをかき乱すような素振りをした。  コーヒーを飲み終わった桐生が、携帯を取り出した。 『和人が、次の発情期に休みをとっているなら家に来いって言ってるんだけど』  画面を見せようとして消した。  家に行ったら番として、パートナーとして認めたことになる。  和人はそれを望んでいるけど、それを認めてから一緒に仕事はしないというのは言い出しにくくなる。  一緒に仕事をしたいと望まれているのは、パートナーとして一緒にいたいってことも含まれているんだと思う。  和人とはまだ話してないからどこまで本気なのか、僕で仕事が務まるのか、運命の番だからという驕りなおかもしれない。  和人はすぐに僕を甘やかすから、判断が甘いのかもしれない。 「何を考え込んでるんだ?」  桐生に言われて顔を上げた。 「和人兄に関わることなら本人に聞いてから判断しろ」 「わか、った……」  頷くと、「仕事に戻るぞ」と言って先に桐生が席を立った。  判断は自分に任されている。和人も返事は気が向いたらでいいと曖昧なことしか言っていなかった。  決断力がないのは昔からだ。ずっと桐生についてくるだけだったから。  テーブルの上を片付けて桐生を追いかけた。

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