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第31話
部屋の中に和人のものが増えて、和人との生活も10日になると大分慣れた。
来週には発情期がくる。このまま和人はいてくれるんだと思っていた。
「明日、向こうに帰る」
急に和人に言われて、驚いて見つめる。
「ひなたも声出せるようになったし、ご飯も普通に食べられるようになったし、そろそろ俺も向こうの仕事に顔を出さないと」
喉の違和感はまだ残っていて、しゃべった後にはついつい手を喉に当ててしまう。
こっちにはまた来るんですか?
発情期には来るんですよね?
「………」
言葉を出していいはずなのに、どうしてだろう、和人にモノを言えない。
「店を出すのは夏だからもう時間もないし、あっちの仕事も続けるから段取りしないと」
和人はキッチンに自分が買い足したものを、「紅茶はひなた入れられるよね?」、「冷蔵庫の中身は適当に食べてね」、「洗濯物は干せる時は外に干すんだよ」、「歯ブラシは捨ててもいいよ」と次々テンション高く言い続ける。
「アキから借りた布団は明日干してから返しに行くね」
一度も使わなかった。
一度も干してない。
ずっと一緒に寝てた。
「ひなた?」
呼ばれて顔を上げる。
「わ、かった」
返事をして何度も頷いた。ローテーブルの横にそのまま転がる。
「ど、どうしたの? 眠たい?」
急に横になったから驚いたのだろう、和人がキッチンからそばに駆け寄った。
寝転んだまま手を伸ばして、引き寄せる。
最後の夜だ。
「一緒に、寝て」
僕が寝てからじゃなくて、同じ時間に一緒にベッドに入って。
朝もこっそり出ていかないで。
もっと、強く抱きしめてもいいんだよ。
掠れた声がさらに掠れる。
「いいよ」
ローテーブルを和人が押しやって硬い床に向かい合って寝転んだ。
「何? 寂しくなった?」
返事はせずに和人に擦り寄ってその胸に顔を埋めた。
同じ柔軟剤の匂いとボディーソープの匂い。
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