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第33話

 呼びかけても返事は無くてユニットバスのドアを開ける。そこにも姿は無い。急いでベランダに繋がるカーテンを開けて窓を開けて外を見ると、そこに停まっていたはずの和人の車は無くなっていた。  スマホを取り出して和人に電話を入れるが、数コールすると留守番に切り替わってしまった。  桐生に急いで電話をかける。 「和人はそっちに行ってる?」 『ああ。今朝来たがもう出たぞ。8時に迎えに行くから待ってろ』 「え?」 『車がこっちにあるから、お前を8時に迎えに行く』  ああ、そっか。 「分かった」  電話を切った。  和人は何も言わずに出て行ってしまったんだ。 『今度はひなたが決断するんだ』って昨日言っていたのはそういうことか。  僕が桐生を選ぶか、和人を選ぶか。  今まで決断を人に委ねてきたから、今度は自分で選べと……。  日本なんて年に数回しか帰っていない。  今までこっちで生活していてどうして急に日本で新店舗をオープンさせることにしたのか。  何か事情があるのか。  訳がわからないことだらけだ。  時間を見るとあまり余裕は無くて、身支度を整えるとテーブルの上の食事は冷蔵庫に押し込んだ。  冷蔵庫の中には和人が作り置いて行ったもので溢れていて、「これ、どうすんの」と呟いてしまった。  牛乳なんて飲まないし、豆乳は使い道が分からない。タッパーに詰め込まれているドロドロした物が何かもわからないし、小さな野菜室には葉物野菜がびっしり入っている。  冷凍庫を開けるとラップに包まれた何かが詰め込まれている。手にとってみても白いそれが何かは分からない。  和人が来てから冷蔵庫を開けてなかったけど、こんなに詰め込まれているとは知らなかった。  朝食の皿は冷蔵庫に入りそうにない。仕方なく流しの上に置いた。帰ってから食べよう。  和人の残して行った物が溢れている。洗面所には歯ブラシと洗顔料。寝室のクローゼットには数枚の服が残されている。 勝手にいなくなるなら全部片付けて行ってくれればいいのに。なんで、残していくんだ。 これはまるで、存在を残されているようだ。 『ビィィイイ』

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